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源平観戦日記


人形師 辻村寿三郎×平清盛「平家滅亡への軌跡」

期間:2012年4月23日~5月20日(第1期「清盛生誕の謎」は3月16日~4月22日)/於:目黒雅叙園

■目黒雅叙園といえば…私にとっては「東京の豪華でお上品な結婚式のメッカのひとつ」というイメージです。もういっこは椿山荘。そんな場所に、5月4日のイベント翌日でいい感じにヨレっとしているわたくしが行って参りました。
■この経緯といいますのがですね。
4日のイベントで私の本を見てくださったかたと、明日の夕方岡山に帰るんです~とお話してたら「そうだ、これあげます!」と。なんと招待券をいただいてしまったのですよ!!
招待券…ええもうありていにもうしますとタダ券ですよタダ券! しかも元の入場料が1200円とかなの!
ひーうれしいーこれはもう行かねばなるまいー!!…と、ようやく東京がお天気になった5日、飛行機に乗る前にいそいそと行って参りました。券をくださった方のお名前をちゃんとうかがってなくて、ほんとすみません。この場でどんだけ私が満喫したかをご報告することを御礼にかえたいと思います。

■ホテルを出て向かう前に、「がじょえん…って、あのセレブな建物!! やばい私めっちゃ庶民服!!」と焦り、バッグの中からなるべく上品そうなお洋服を選んで、おそるおそる行ったところ、なんかランチとかもやってるみたいで、普通にポロシャツのお父さんとかいて安心しました。やれやれ。
もらった券を受付の人に見せると、エレベーターで3Fへと案内されます。
エレベーター、黒い。そして螺鈿細工みたくなってる。ぎょえーセレブよーセレブよー。
■なんとなく頼まれてもいないのに新入社員みたいに操作盤の前に立つ小心者庶民のわたくし。
あとから乗ってくる和服とかのおばちゃんたちは、全員降りるまで「開」ボタンを押してる私を見ることもなく、当然のように悠然と下りていきました。いやーどうでもいいんだけどさー、あのエレベーターで押してる人にありがとうーって言うかどうかで社会人経験あるかどうか分かるよね。ちっ。
と、ここでは愚痴を書いても、その場ではじっと「開」ボタンを押してた負け犬です。気後れした(笑)。

■で、3Fでおりたら、「はきものをおぬぎください」の表示。えっ、お人形の展覧会で靴ぬぐの?
なんと、今回の展覧会は、目黒雅叙園ご自慢の木造豪華建築「百段階段」&付属のお部屋たちで開催されてるのです。ここはもともとは高級料亭だったお屋敷でして、畳のお部屋なので靴を脱がなきゃいけないんですね。
■後述するように人形もすごいんですけど、この場所がまたいいですわ。
日本の美術館や博物館って、自分達の文化を象徴する作品群を無機質なハコに入れてるのが無粋だ…って言われたりするじゃないですか。
でも、今回の展示は、建築の時代は勿論違うんですけど、「和」の空間の中に人形がいて、それが面白い。
普通の美術館に置けば、作品だけがもっと浮かび上がるのでしょうが、和室の中に置かれていることで、また独特の世界になりますね。
特に、ここの建物の天井にもふすまにも、季節の風物だけじゃなくて人物画の装飾も多かったから、なんだか曼荼羅的。
悪くはない意味で、作品だけに集中しきれない。
■建物のつくりも面白いです。
幅1.2Mとかそのくらいかな? 幅はさほど広くないけどタテにながーく99段の階段が伸びていて、途中途中で右側にお部屋があるんです。廊下のガラス戸はガラスがゆらゆらして見える感じだったので、おそらく手作りガラスとかですね。ひぃーセレブよーセレブよー。
で、私たちは下のお部屋から順番に階段を登りながら、平家の物語をたどる。
私の前にいたご夫婦が「先に上りきって、降りながら見ようか」って相談してそうしてたんだけど、この展示の演出としては下から順番にたどっていくのが、お人形でつくられた「物語」の辿り方としては正しいと思う。

■さて、お人形たちです。
単に「清盛の人形」「時子の人形」ってことではなく、平家物語のどこかの場面(平家物語から派生して、寿三郎氏がつくったストーリーである場合も)を切り取って、その場面の人物を描いています。
面白いところでは、保元の乱に負けた連中の晒し首場面とかあった。ひーこわいー。
3段の木棚に青白い首が並んでるの。
頼長の頭に、まるでアホ毛のよーに矢が刺さってたのが衝撃。えっ、頭なの!? 首じゃなくて!? (まぁ首でも矢ガモみたいでしんどいが)
それを見ている信頼(信西じゃなく)、って構図だったんだけど、信頼が結構イケメンだった。
■あと、寿三郎先生が平家物語に興味を持ったきっかけが崇徳院(「瀬をはやみ…の和歌を詠んだあのかたが、しかも帝であったかたが、そんな怨霊に!?」という衝撃だったんだって)だったらしくて、悲しげな表情で流罪になる崇徳院、怨霊化してなんだか一人称「ワガハイ」語尾「ざます」の悪の伯爵みたいになった崇徳院(いや、ツリ目で黒と赤の衣装で、指先がマニキュア塗ったみたいに赤かったもんで…)とかありました。
ちなみに、指先が赤かったのは、都からの酷い仕打ちを恨みに怨み抜いて、自分の指を噛み切って呪詛を遺し…ってな伝説があるからです。お洒落ではありません。
■3部屋くらいが平家物語の部屋で、1部屋に4場面くらいですから、そんなにぎっしりエピソードが描かれてるわけじゃありません。でも、好きじゃなかったら敢えて描かないような場面が多くて面白い。
前述の晒し首もですが、

・女装して逃亡する以仁王
(表情がどんなか見たくて、覗き込んじゃった。わりと普通の表情でした。もっと苦渋の表情かと思った。)
・鹿ケ谷のバカ宴会
(デカい杯を頭にかぶってたり、明らかにおっさんたち無礼講モード。ちゃんと瓶子も転がってた。芸が細かい!)
・熱病で「あーちーちーあーちー♪もえてるんだろーかー♪」状態の清盛
(でも、前をギッと見つめてて、決して戯画的ではなかったです。寿三郎先生の清盛への解釈がわかる。)

とかあと面白いところでは、時子の妹達のお人形もありました。
建春門院はともかく、清子(宗盛の奥さんで、清宗のお母さん)とか冷泉局(建春門院の女房になった人)とかもいたのが興味深い。
一方、清盛の息子達は見なかったなぁ。維盛の青海波とか見たいなぁ。作ってくれないかな。
■終盤には、安徳帝の入水シーンもありました。
ただ、寿三郎先生の「平家物語」では、時子が抱いたのは安徳帝ではないというストーリーなんだそうです。
入水シーンは、

二位尼(時子)が安徳を抱いて毅然と立っていて、向かって右に建礼門院徳子、左に…あれ、誰って言ってたっけ。多分按察局だと思うんだけど、が縋り付くように座り込んでいる。徳子はただただ泣き濡れる風情、按察局は二位尼に抱かれる帝を見上げている…

って構図なんですけど、寿三郎氏のストーリーでは、この抱かれている子どもは按察局の子(身代わり)なんだって。そのつもりでこの場面を描いたんだそうです。
そのストーリーに至った思いを、「実のおばあちゃんが、実の孫を、抱いて入水なんかするだろうか? いや、長く健康に…って願うのがおばあちゃんじゃないだろうか」という違和感が起点だと、解説映像で語っておられました。
ここ、私は意見が違うんです。
前にうちのおかんに「お母さんだったら、どう?」って訊いたとき、母(とはいえ私も弟も未婚なので彼女は「祖母」ではないのだが)は「まみころにそれをさせたくない、とは思うだろう」って答えたんですよね。
私は「そういう考え方もあるのかー」とすごく腑に落ちたので、寿三郎先生の意見とは違うんです。
でも、こういう、自然な気持ちの発露を根拠にして、出来事のスキマを探るというやり方にはすごく共感する。
■ところで、このお人形。
二位尼はキリっと立ってるのですが、実は目じりにちょこっとラメ?が置いてあって、角度によってキラッとするんですよ。いまは迷いなく立ち上がった時子だけど、涙が一筋流れてるんですね。この演出にグッときたわー。
ほんとに砂粒みたいなちっちゃなラメなんですけど、いやー、細かい!すごい!!

■そのほかには、氏の代表作ともいえる、人形劇八犬伝のお人形(平家物語のと比べると、表情がかなりデフォルメされてますね。写楽とかの浮世絵の表情っぽい。)や、西鶴五人女や南北五人女、シーボルトいねや蝶々夫人のお人形たちもいました。あと、珍しいところで江戸川乱歩「押絵と旅する男」とか。
江戸題材の作品については、不勉強で名前をみてもピンと来ないお人形も多かったんだけど、南北五人女の「桜姫東文章」桜姫はわかった!(なぜって木原敏江先生が漫画にしてたから…)
放浪してるときの姿だったのですが、お姫様のわりにコケティッシュで、「あーわかる」って感じ。
■平家物語題材のお人形というと、ほかには川本喜八郎氏や、ホリヒロシ氏も有名ですが、お人形って「点」のはずなのに、それを連ねるて物語にしているというストーリー性において寿三郎氏はすごい!って思いました。

重ね重ね、チケットくださったかた、ほんとにありがとうございましたー!!
by mmkoron | 2012-05-05 21:50 | その他映像・劇 等

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