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源平観戦日記


第40話「はかなき歌」

■今回は、時子の妹・滋子が主人公。
ご存知の方もいらっしゃると思いつつも彼女のプロフィールをご紹介します。
時子・時忠とは異母きょうだいで、時子たちの母親が宮仕えの末端侍女だったのに対して、彼女の母親は鳥羽院お気に入りの部下の娘。なので、きょうだいとはいえ、兄姉よりは格上とも言えます。
最初に上西門院の女房として仕え、上西門院と後白河が仲良し同母きょうだいで一緒のお屋敷に住んでいたこともあって、そこで見初められて後白河の寵愛を受けます。
彼女の幸運はそれだけでは終わらず、みごと後の高倉帝となる皇子を出産。12歳から彼女に仕えた健御前の『たまきはる』では快活かつ茶目っ気のある彼女の性格が賛美されていますが、『平家物語』のなかでは、以仁王の出世をはばむなど、権力志向でダークな面が描かれます。

■さて、このころ。兎丸という犠牲を出しながらも、ようやく福原の港が完成しました。
そこで清盛のインフラ整備は「貨幣の流通で、交易がスムーズになる」という段階にうつります。亡き信西の弟子・西光に貨幣を渡し、都でこれを率先して使ってくださいと依頼する西光。
西光は清盛を苦々しくは思ってますが、しかし交易の発展は信西が着手しようとしていた事業でもありました。信西のためにも協力しようとする西光。
渡された貨幣を見ながらしみじみしている姿は、ほんとに信西のことを崇拝に近く尊敬してるんだなーと感じさせます。
■と、この計画遂行とは別に、清盛はもうひとつの計画も進めます。
それはずばり、高倉帝に入内させた娘・徳子のご懐妊。後白河&滋子のふたりを厳島に招待して海路で渡り、そこで子宝祈願してもらおうという計画です。
とはいえ、清盛は信心だけでそんな計画を立てたわけではありません。権力者ふたりに清盛の「瀬戸内海を使った交易を発展させる」という計画の一旦を見てもらうこと、そしてその計画に権力者2人が既に関わっているという様子を外向きに発信することが、真の目的です。
階層を作るのではなく、面を広げて発展・進化させるという厳島神社の造りを見せ、これが私の目指す世ですと後白河に伝える清盛。
彼の頭の中にはこれからすべきことの計画が組みあがっていて、具体的に見えています。
■その様子を見て、内心焦りをおぼえる後白河。
いつも清盛に「お前の考えてることなんて全部お見通しなんだよーばーかばーか」というスタンスを取ることで優位を取ろうとしている後白河ですが、自分がノープランノービジョンであることを知らされてしまった。
イライラするのではなく、ちょっと呆然とした感じであるところで、彼が本当に「どうしよう…」となっちゃってることがわかります。
そんな後白河に笑顔で「別に清盛と比べる必要なんてないでしょ、あなたはあなたのペースで自分のやりたいこと見つけたらいいわよ、私もいるじゃない!(意訳)」と返す滋子。
寂しがり屋な後白河には、「誰から言われたわけでもなく、私があなたを選んで大好きなのよ!」というスタンスで寄り添ってくれる滋子は、得がたい存在なのです。

■その頃の伊豆では。
頼朝の飲み仲間になっていた、豪族のおじさんがひとり亡くなりました。大番役として京都との間を行き来するハードな仕事を続けた末の、過労死だったそうです。
豪族おじさん会は、弔問にやってきた頼朝に、源氏に立ち上がってほしいという心情を吐露しますが、それを受け流して去っていく頼朝。しかしその頼朝に政子が追いすがります。
この政子と頼朝の動きがかわいいね。頼朝はぶしつけなオナゴ呼ばわりするも、政子は動転しながらさらに追っかけ、イラっとした頼朝が政子を突き飛ばし、政子が転ぶ。そこで頼朝が我に返って「すまぬ…」と謝るところ、政子が「いえ、私こそ…」と謙虚に謝るところがかわいい。
しかし政子がそこで、自分がぶつかったせいで箱から転がり落ちた太刀(髭切)を片付けようとしたところで、頼朝はまたまたキッとなって、「触るな!」と怒鳴りつけます。
柔和に見える頼朝の、内面の猛々しさに触れてちょっとぎょっとする政子なのでした。

■頼朝が武士らしい猛々しさと表の柔和さを行ったり来たりしているとき、平家の若者たちはせっせと雅の世界の訓練に励んでおりました。
いつか院にお見せしようと舞のお稽古に熱心な維盛&資盛(重盛の息子達)。知盛と重衡は、伊藤忠清の指導で弓のお稽古をしてはいますが、重衡はあくまでもスポーツとしてやってるようで、武士として実戦力はたえず鍛えておくべしという忠清の思惑とは異なります。
戦なんてもうないよと明るく言い放つ重衡にがっかりする忠清に、知盛は一定の理解を見せつつも、もう平家は武芸一筋では発展できない踊り場に来ているんだと慰め顔で伝えるのでした。

■お買い物に率先して貨幣を使って、清盛に協力する西光。
その代わりに…ではありませんが、信西が以前に復活させ、しかし乱のごたごたで絶えてしまっていた「相撲節会」を復活させようとする西光は、その援助を清盛に依頼します。
しかし、今は福原の港湾整備などで忙しいので、宮中のイベントに係わり合いになっている場合ではないと断る清盛。信西は、宮廷への権力集中や宮廷の充実を重視していたのに…!と激怒する西光に対して、清盛は「信西が今も生きていれば、自分に賛同してくれる」と悠々と断言します。ぎゃ地雷踏んだー。
確かにそうだと思います。信西がそう言ってたときは、摂関家やらに押されて院や帝のイニシアティブが弱かったんですよ。だからああいうことをやっていた。でも、今はもうそういうイベント的な盛り上げではなくて、実質的な発展を積み上げる時期なんでしょう。
なんでしょうけど、それは西光に、「あんたは信西が死んだ時点の信西の行動を反復してるだけだ、もし今も生きてたとしたときの彼を思い描くだけの力がない」と突きつけることでもあります。
信西の一番弟子を自認する西光にそれを言うのはだめだよー。
■清盛は本質は周りの反応にいちいち傷つくナイーブな人でしたが、保元・平治を経て、図太さの殻で自分の視界を制御する術を覚えたようですね。
でも、おべんちゃらができない性格は残ってるから、両方が相まって「ワンマンで、ちょっとした気が利かない」人になっちゃってる感じだなー。あーあ。

■ここにも清盛たちの繁栄に内心ムカついてる人が。藤原成親です。
妹の婿である平重盛が、いよいよ大臣職にリーチかかりました。口では「まぁうれしい」的に言ってますが、いよいよ本格的に平家の公達が自分たちの上役になっていくことが面白くありません。
西光と2人でムカムカしています。
■そんな2人をとりなすのは、滋子なのです。
何か察したのか、ナイスタイミングで2人を呼んで「いつもありがとう」的なパーティーを開きます。
「成親の柔和さと、西光の聡明さは、院の世になくてはならぬもの」という滋子の言葉に、上っ面でなく本心から感激してる様子の成親がちょっと可愛い。あと、なんとなく平家に反感も持ってるので滋子から賜ったお酒に口をつけないでいる2人に「私が酌をしようか?」と言い出す滋子と、口をそろえて「いやいやいやいや」とリアクションする2人も可愛いわー。
ポイントを逃さず、「しんどいこともあるよね、わかってるよ」「でも2人がよくやってくれてることは知ってるよ」「あなたの力が必要よ」「私に力を貸してね」と言葉を尽くして語りかける滋子は、確かに天才です。

・相手の不満を汲み取って吸収
・自己承認欲求に応える
・居場所がなくなるかもという不安に対して、自分が居場所になると保証

さらっとこれだけやってるわけなので。なんか、面談時に使えそうだわーこのテク。但し中身に真心がないとダメなわけですが。
■そしてもちろん、滋子は後白河にとって精神的なよりどころです。
滋子に、あなたはあなたの好きなようにやればいいと応援された後白河は、大好きな今様を集めた「梁塵秘抄」をまとめることに着手します。軽んじられがちな、やがてはかなく消えていく歌たちを、せめて文字で残しておきたい。そこには、後白河が虚栄を脱ぎ去ったときの、寂しがり屋で心細い魂が共感する世界です。
それがあなたの世なのですね、とそのはかない世界を一緒にいとおしむ滋子。

■後白河は50歳を迎え、平家の総力を挙げてそのお祝いの宴がひらかれました。
子息たちを引き連れて威厳・貫禄たっぷりにお祝いを言上する清盛。このシーンが面白い!
後白河が、何か言いたそうに口を動かそうとするんだけど、なぜか言葉が出なくて、ちょっとゆらゆらしてるんですよ。清盛の貫禄にちょっと気おされてるんですね。その様子を見て、さっと立ち上がる滋子。
後白河を支援して優位に持っていこうとしたのか。このまま放置するとまた後白河がいらんこと言い出して、折角へりくだってきてる清盛一家をドン引きさせると思ったのか。
多分どっちもだと思いますが、彼女は悠然と清盛に杯を進め、そして次に後白河にも杯を進めました。
ここで2人の間の緊張感をやわらげ、後白河に時間を与えました。
滋子の働きもナイスだけど、この脚本と演出もナイスですね。滋子の描き方が巧い。得子や、こののちの丹後局(「義経」で夏木マリさんが演じてましたね)とは違う意味の、男を敵にまわさない「やり手」だなーと。
時間を与えられて気持ちをやわらげた後白河は、清盛にお互いになくてはならぬ存在だと語りかけます。
自己承認欲求が満たされると、後白河って、政治よりも文化を思考するアーティストになるんですよね。そのときには、清盛は後白河の敵ではなく、むしろ視野を広げ刺激をくれる存在なのです。
■そうこうするうちに、宴が始まり、維盛&資盛の舞が始まります。
この青海波の舞、そういや「義経」のときの賀集&小泉ペア(イケメン度はこっちのほうが高いね)もすっごい練習してたらしいのですが、ほんと1秒くらいしか映像にならなかったんですよね。今回はじっくりカメラまわっててよかったね。

■しかし、そんな和やかな時間はつかの間。滋子は35歳の若さで死んでしまいます。
ドラマ見てるといきなりだな!って思いますが、実際にも、3月に後白河院50のお祝いをやって、6月に発病、7月には亡くなっていますから、ほんとに急死だったのです。
書物では「二禁(はれもの)」がもとで死んだ…とされてます。このドラマだとしょっちゅうお酒飲んでたので、肝臓悪くしたんじゃないの?って感じですが。
滋子のなきがらに、死に水のかわりに、彼女が大好きだったお酒を口移しで含ませる後白河がかなしい。
かつて滋子の前で歌って、「会えない女を恋しがってる歌じゃないですか、どこの誰に?」とツッコまれていた今様を、暗い部屋でうたいます。
今となっては、もう逢えない滋子を恋しがる歌になってしまった。部屋には、まとめかけの今様の書き写しが散らばっています。自分なりの、芸術という世で自己実現しようとしていた後白河の心はすっかり折れてしまった。その道を応援してくれていた滋子はもういない。
そうなってしまうと、彼はやはり政治の世界に「自分を認めさせる」道に戻っていくしかないのです。
by mmkoron | 2013-01-04 13:01 | 大河ドラマ「平清盛」

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