杉本苑子 著/中公文庫/680円/1985年発行
源頼政の娘で、二条院に仕えた女房・讃岐。
4人の女性達が、彼女のことをひとりずつ語るという形で書かれています。
その4人とは、
1)讃岐の叔母で、源頼政の妹である、待賢門院美濃
2)信西の妻かつ後白河院の乳母である、紀伊二位
3)源頼政の恋人・大宮の小侍従(待宵の小侍従)
4)神崎(西国と京の中継地)の遊女です。
とはいえ、讃岐は歴史の表舞台に立った人物ではなく、あくまでも「二条院のお情けを賜ったこともある女房」でしかありません。さらに彼女が“外見は美しいものの、寡黙に暗ーくしてるので印象に残らない”タイプの女性だったので、女房仲間たちの印象も薄く、寧ろ1)~3)の人物が語る歴史的背景のほうが興味深いのです。
1)保元の乱勃発の原因となった、
白河院・鳥羽院・崇徳院・待賢門院の複雑な人間模様
2)平治の乱勃発に至る、後白河擁立~信西VS信頼の動き
3)二条帝と後白河院の対立
それぞれが仕える主のサイドから語られてるのも、面白いです。1)の美濃は待賢門院の女房ですから、待賢門院に肩入れした語りをしてます。待賢門院って、批判的に語られることのほうが多いので、新鮮です。2)の紀伊二位は後白河院の乳母。だから、後白河の性格を辛辣に分析しつつ、なんだかんだ言って甘いですしね。
で、この3人が語る讃岐という女性は、良く言えばなぞめいている、悪く言えば不気味な女なのです。
その不気味さ、3人が讃岐に感じていた「得体の知れなさ」が、4)で姿を見せます。
4)の遊女が語るのは、源頼政と以仁王の決起。遊女の話を、源頼政の元部下だという武士が補足してくれるのですが、そこで讃岐も思いがけない姿が見えてきます。
同性の女性たちはただ違和感を感じるだけで、讃岐の姿をとらえることができず、
讃岐の動きを見ていたのは男性たちだった……というのが面白い。
女性の語り口なので、歴史の動きがわかりやすく説明されてます。
二条院讃岐に興味がなくても、このあたりの歴史の動向がわかる本としても、読む価値ありです。