山田美妙 著/日本ペンクラブ内「電子文藝館」で閲覧可能/明治22年発表
■「胡蝶」というタイトルはいかにも平家の物語っぽいのですが、これは主人公の名前です。
■場面は壇ノ浦。二位尼は安徳帝を逃がすため、身代わりと共に入水することを決意します。
二位尼に仕えていた平家の女官・胡蝶は、壇ノ浦合戦のどさくさで仲間たちからひとりはぐれ、流され、ほうほうのていで浦に流れ着きます。そこで平家に使える青年武士・二郎と出会い、二人は帝のもとへと旅をすることに。
若い男女のことですから、旅するうちに将来を誓う仲となりますが、そこで明かされたのは、実は二郎が源氏の手の者であるという事実。
彼は平家残党の隠れ里を見つけ出し、安徳帝の命を奪うという密命を帯びていたのです。
■二郎の胡蝶への愛情自体には偽りはなく、恩義と愛情の間で悩む胡蝶。彼女が選んだ選択肢は…。
■とまぁこんな話です。
明治22年ですから文体も小難しいですが、それでもさすが「言文一致体」の山田さんだけあって、先日ご紹介した『滝口入道』よりはずいぶん読みやすいです。
そうか、言文一致ってこういうのなのかー。
■ちなみに安徳帝の替え玉にさせられてるのは、この物語では「知盛の息子」となってます。知忠以外にこの年頃のコがもう1人いたって設定なのかな?
平家の公達で名前が出てくるのは、知盛と教経くらいです。女房である胡蝶の視点で話が進んでるので、男性の姿はあまり見えません。
■さてこの小説。発行当時に話題になりました。
何が話題になったって、その挿絵。
浦に流れ着いた胡蝶は「濡果てた衣服を半ば身に纏つて、四方には人一人も居ぬながら猶何処やら吾と吾身へ対するとでも言ふべき羞を帯びて」という状態なのですが、ここの挿絵がちょっと脱ぎすぎじゃない?と、当時物議を醸したんだそうです。
私もその挿絵を見ましたが、ほぼ全裸です。脇に抱えた衣で申し訳程度に下半身を隠してるくらい。どうやったらここまで流されるんだってくらいの脱ぎっぷり、お前その手に持ってる布をかぶれよというツッコミどころ満載ですが、しかし、挿絵の雰囲気は黄桜のカッパ妻とかそんな雰囲気なので、別に「うわっ、エロっ!」とは思いません。
でもこのときの掲載誌は挿絵効果で2万部増刷だったんですって(^_^;
(参考:「隠すことの顕れ-裸体画論争と文学」中山昭彦 『國文學』H14年7月臨時増刊号)