山田美妙 著/山田美妙歴史小説復刻選 第7巻 所収/本の友社
■こちらは小宰相の物語。重衡は1冊まるっと重衡づくしの中編でしたが、こちらは60P程度の短編。
■上西門院のお気に入り・小宰相は、門院のもとへ出入りする平家の公達・通盛のことが気になっています。お花見の宴にお供する予定でしたが、いつも一方的に見つめている通盛と顔を合わせるようなことになったらどうしよう、と仮病で欠席するつもり。
おつきの女房に眉をきれいに整えてもらった3月6日。
安倍清明の占い本を開いてみると、正月16日の欄には「衣装を裁たば禍あり。
眉を作らば人に恋はる。」の文字。ドキッとして、きゃー3月6日にこんなことが書いてあったらどうしよう、と震える手で巻物を進めたら…
「三月六日。事を改めて幸い有り。眉を作らば人に恋はる。」
人に恋はるキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
↑小宰相の気持ちを2ちゃんねる風に表現してみました。
そんなわけで、彼女は速攻前言を撤回し、お花見に出席するのです。
■まるで少女漫画のような出だし。山田美妙先生ってば乙女の才能ありますよ!
この時点では通盛はお役目大事な人で、門院のところにはせっせと出仕してるけど小宰相の顔は見たことない…って状態なのです。でも、お花見で一目ぼれ。そこから先は「平家物語」でもおなじみの猛烈手紙アタックです。
平家物語では、小宰相が何を思って手紙を無視してたかはわからないのですが、こっちの場合は小宰相は通盛に恋してるわけですから、単にどう返していいのか戸惑って気恥ずかしくて放置しちゃってた…という形ですね。
この小説の通盛は無骨一辺倒な雰囲気。なるほどなーこういうイメージもアリですね。
■紆余曲折を経て二人はついに相思相愛になるのですが、でも、次のシーンではいきなり屋島の海上。通盛の討死の報告を小宰相が受ける場面です。
この小説では、小宰相には子どもがなく、かわりに正妻(宗盛の娘。この小説では紹子と呼ばれてます。)に子どもがいるという設定です。
で、小宰相は、例の眉を整えてくれたおつきの女房に、静かに訴えるのです。
私は、人間はみな誰か自分以外の人のために生きるのが道なんだと思う、男なら国のため主のため一族のため。子は親のため、親は子のため。でも私はひとりになってしまった。もう誰のために生きるのかわからない。
そして、月の光を浴びつつにっこり微笑んだかとおもうと、身を翻し、波間に身を投げ…
■私もそうだったらドラマチックだなと思ってたので、嬉しかったのは、そのときに小宰相引き揚げの陣頭指揮を執り、引き揚げられた彼女に脈がないのを確認したのが、維盛だったこと。
この小宰相の絶望を理解しようとしてあげられる人…と思うときに、維盛ってかなりいい線いってると思うんですよね。
「可哀想ぢやと今他(ひと)と言ふ己等もいつか既(と)う頓(やが)ての内には同じ様に言はれるわ。泣くのは他(ひと)に泣くので無い。皆己れにと泣くのぢやわい。」と、美しい顔に凄い笑み。
まさに維盛は自分の運命を見てるんでしょうね。さて、このモチーフは後述の永井荷風「平維盛」にも出てきます。その話はのちほど。