源平観戦日記


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リョウ

上田倫子 著 / 集英社文庫コミック版 / 全8巻 / 各650円

■紹介の一覧を見直してて、「あっ、リョウの感想書いてない!」と気づきました。連載されてるときから読んでた(つまり、平家物語に興味を持つ前から読んでた)のですが、あまりにふつうに読者として読んでたので、ここに書かないままにしてました。
■さて、そんなこんなで感想です。
「リョウ」というのは主人公の名前。普通の女子高生である「りょう」は、京都での修学旅行(ということはこのリョウは高校2年生くらい?)で謎の大男に薙刀で襲われます。
その後、その大男・弁慶が彼女の祖父が経営している剣道道場に再び来襲。
剣を習ったことのないりょうが勝てるはずもなかったのに、しかしなぜかりょうの体は自然に動いて弁慶を打ち負かし、彼の臣従を得てしまいます。
祖父や両親がひた隠しにする、りょうの正体は一体…!?



…って、まぁ正体は義経なんですけど(^^;



■早い話、「○○は実は女の子」とタイムスリップ物の掛け合わせです。
特筆すべきは、「現代人の女子高生が義経として遇されるという」ではなく、「元々義経だった人間が、現代人として育てられてた」…という展開であることですね。こういうタイムスリップ物としては結構珍しいと思います。でもって、ラストにこの設定が非常にキくんですよ。
前者、つまり「女子高生が義経として」だったら、あのラストは消化不良だったと思う。ウマい。
絵は正統派で、非常にキレイです。少女漫画のなかではトップクラスだと私は思います。
■さて、少女漫画ですから、この義経はモテモテです。
 ・義経に絶対服従(でもわりとお小言を言う)な弁慶
 ・現代での幼馴染・葵(あおい)
の二人が当初からいて、さらに2巻で我等が平家のエース・維盛様が加わります。
この維盛が、少女漫画の男性キャラとして非常に良い。
ボンボンで、芸術の才能以外は、政治力にも軍事的にも欠けてるのですが(そこは平家物語と一緒っすね…T_T)、とにかくけなげで、りょうに対するアクションだけは異常に行動的なんです。一途でかわいいやつです。
メンフィスとイズミル王子なら絶対イズミル派、ジョフレとフィリップなら絶対フィリップ派、大津と草壁なら絶対草壁派な私(最後のはちょっと違うか。)としては、維盛をダメだろうとわかっていても応援せずにはいられませんでした。
私が平家の漫画書き始めたとき、維盛を当然のように西洋風王子様な顔立ちにしようとしたのは、この漫画の影響受けてると思います。
■おっと維盛の話をしすぎました。
著者の先生はほかにも時代モノで漫画を描いておられますが、時代を描くというスタンスではなく、少女漫画の素材として歴史をエッセンスにしてるという立ち位置ではないかと思います。
だから、主人公の敵側とか、ヒロインにあまり関わらない情報に対してはバッサリ切り捨てられたり、ものすごく単純なキャラにされたりはします。
そこはふまえて読まないと、本筋の漫画としての評価以外のところでプンスカしてしまうことになってしまうので、いわゆる歴史ファンとして読む場合はご注意ください。
あと、これも少女漫画の特徴だと思いますが、どんどん話の進行についていけなくなったキャラたちがフェイドアウトしてくので、そこも慣れてない人には違和感あるかなぁ。
佐藤姉弟(そう、姉なの!)とか、虎子さん(葵やりょうと一緒に現代から飛ばされてくる芸妓さん)とか、安徳帝や…。このへんは最後ちょっとうやむやになっちゃって残念。
でも、泰衡様は良かったなぁ。あの泰衡様は、いろいろ辻褄が合わない部分はあるんだろうけど、でもすてきだ。良いスネオって感じでキュートだ!
■物語としては、現代が自分の居場所ではなかったことを知った義経が、源平合戦のなかで自分の居場所を探し、最後に自分が何のために存在してたかを知るというお話です。
源平の物語を題材にしつつも、かなり想像による飛翔度の高いストーリーですが、波乱万丈で面白いですよ。
ラストはほろりときました。私、「ウィングマン」とか、こういう系統のラストに弱いんですよね…。
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by mmkoron | 2008-03-22 23:49 | コミック


後白河院

井上靖著 / 新潮文庫 / 420円 / 改装版2007年発行(初版は1972年発行)

■とらえどころのない平安末期の大天狗・後白河院を4人の人物の視点から照射した短編です。この4人というのがまた通好みというか。
 ・平信範(『兵範記』作者)
 ・建春門院中納言(『たまきはる』作者)
 ・吉田経房(『吉記』作者)
 ・九条兼実(『玉葉』作者)
の4人です。一番有名なのが兼実さんだなんて、なんてマニアックな選出。
しかし読み始めると、これが絶妙な4人だなーとわかるのです。
■まず、トップバッターの信範さん。
彼が、平家上り調子の頃、ちょうど藤原基通基実(ごめんなさい。息子の名前書いちゃってました。修正します。ご指摘ありがとうございました!)が死去した頃に、兼実に対面して昔語りを話して聞かせる…という形式で話が進みます。保元・平治の乱あたりの時期の担当ってわけですね。
彼は院の傍近くにべったり仕えてたわけではないので、あくまでも藤原忠通の家司としての立場で、忠通の話をしてます。忠通が弟である頼長に勝利する過程に、後白河の話が出てくるという形です。
信範さんは立場上、忠通とその血筋万歳・全肯定な発言連発キャラだったので、そのムズ痒さも面白いです。兄である藤原基通基実が死んじゃって、弟のあなた様もどんなに悲しいでしょう?と語りかけるあたりは、これは空気読めてないのか、キツい皮肉なのかどっちなんだ…と思ったり(^^;)
彼の語りの中に院の姿はほとんど出てこないですが、当初ノーマークだった後白河がひょっこり話の中に出てくる様子は、実際そんな感じだったのかもなと思わせます。
信範の数少ない後白河との接触のなかで、印象に残ってるのは甲高くて邪気のない笑い声と、自信に満ち溢れた信西の横顔を無表情で見つめる目。
信西は結局自死することになるが、その最期まで後白河のあの目に気づかなかったんだろう、と観察者の家に生まれた人間ならではの洞察を述べつつ、彼のパートは終わります。

■次は、建春門院平滋子に仕えた女房、中納言の語り。
この語りの時期は、鹿ケ谷の陰謀が露見し、その後、徳子が安徳天皇を出産した頃です。
彼女もまた院の話をするというより、建春門院の栄華と死を語ります。
これがいっときの栄華であるとわかっていて、まるで自分で幕引きまでしていったようだと語られる建春門院。四季の花々にみなが恐縮するほど慈しみを与えるくせに、ちょっと鼻につくととたんに見向きもしなくなったという後白河院。
建春門院が、あざやかに華やかでいながら、けれどどこかうつろな寂しさを感じさせたのは、それがわかっていたからなのだろうと匂わせつつ、彼女は話を終えます。
最初のパートは兼実が聴き手ですが、ここは誰が聴き手なのかわかりません。

■3番手は、吉田経房。
二心の無い忠勤に励む官僚として評価され、反発心からなのか義侠心からなのか、壇ノ浦後には維盛妻(新大納言)を妻に迎えた人です。
この人は後白河に対して全肯定。院に対して批判的な兼実を嫌っている発言が出てきます。第1部(平信範)とギャップがあって面白い。
後白河に対しての「あっちに靡き、こっちに靡きしている」という批判に対して、そういう批判をする輩は院のご深慮がわかってないんだとキッパリ反論。のらりくらりとしてるという批判に対しても、それは慎重さなんだと反論してます。
けれど、そんな経房も院に対してどこか不安を抱えてます。語りの頃は、ちょうど義経と頼朝の対立が表面化してきた頃。義仲のときとは違って、院はこの二人を争わせるお心はないはずだ、だって院は義経のことは気に入っているのだから…と言いながらも確信を持てないまま、経房の語りは終わります。
この語りが終始ガチガチに硬くって、経房のキャラが出てて面白かった(^^

■4番手は満を持して登場、九条兼実。
彼の語りは、院もすでに亡く、兼実自身も失脚した、その頃です。
まつりごとに関与する望みも絶たれ、虚脱状態ですっかり毒の抜けた兼実が語る口調もまた面白い。
後白河院に批判的だった彼は、ここにきて、自分の院への評価がズレていたことを認めます。院はのらりくらりと態度を変える中途半端な人物などではなかったと。
彼は終始変わっておらず、ただまわりが院を窺いながら態度を変えていただけ。院はそれらの相手にてきとうな返事をしてただけなんだと。
院は敵味方の間をうろうろしてたわけでもない。彼にとっては全員が敵だった。
それが兼実が行き着いた結論でした。
そして、兼実は自分自身に対しても「娘を中宮にしたい、という気持ちがある」限り、院にとっては敵でしかなかったのだろうと認めます。
そんな兼実が、若き日に信範に聞いた昔話のことで、一番よく憶えていたのは信西のくだり。
あれだけ根性据わってる信西が、どうしてあっさり自死したのか。
それは、自分の死を願っているのが、敵方である藤原信頼だけではないことに気づいた、その絶望ゆえだと兼実は語ります。自分が何のために情熱を傾けていたのか、ふいにわからなくなってしまったんだろうと。
誰もがどこかに自分の栄華への野心を持つなか、誰もが院の敵であるなかで、信西だけはちょっと違っていた。でも院は信西をも敵とした。
そう分析しつつ、兼実はこの躁気味でいて鬱屈した王者の追憶を終えます。

■この4人の立場、とくに兼実のこの時期の状況に思いを馳せつつ読むと、味わい深さが増すように思います。
院の実体がなーんにも見えてなかったよ、と全部なくしてしまった時に気づき、正直に告白する兼実はちょっとかわいいっすよ。
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by mmkoron | 2008-03-08 18:20 | 書籍


六道の沙汰 平家の女と男たち

高山路爛 著/文芸社/税抜1300円/1999年発行

■平家物語の読み本系と語り本系の両方をなぞりながら、平家物語に登場するカップル(とはいえない組み合わせも1組ありますが)を紹介するというエッセイ調の本です。この本の中で扱われているのは、

・袈裟と遠藤盛遠
・横笛と滝口入道
・祇王・仏と清盛
・小督と高倉帝
・千手と重衡
・新大納言と維盛
・徳子と後白河

「平家の女と男」、というよりも「平家物語の女と男」のほうがしっくりくるかもしれませんね。
作者の先生は、最初覚一本を読んでいて、途中で源平盛衰記のエグさにハマったようで、盛衰記から引っ張ってきた話題が多いようです。
玉葉とかも出てくるんだけど、こっちは孫引きなんじゃないかな。さらっと触れる程度です。
というわけで、史書をいろいろ並べて人物の実像を考察…というよりも、あくまでも平家物語の中の男女の機微を詠み深める本でした。
■というわけで、平家物語に書かれている範囲のなかでの紹介ですし、仰天するような男女観を述べているというわけでもないので、平家物語を一度読んじゃった人には物足りないかも。
平家物語を通しで読んだことはなくて、チャンチャンバラバラの場面くらいしかよく知らない…という人には「へーっ、こんなに恋愛がいろいろ描かれてるのね」と興味深いのだと思います。
私はこの本に出会う前に平家物語を読んじゃってたので、前者だったわけですが、むしろこの作者先生(本職はお医者さんです)が、前書きで語ってる

次期院長候補として望まれて赴任した病院で、まさかのクーデターが起こって突然のオーナー解任&新オーナー着任。自分の息のかかった面子で周りを固めたい新オーナーに言いがかりをつけられて、副院長のポストを奪われる。
この屈辱に甘んじるかどうかで苦悩するが、心機一転、離島の診療所で自分の医術を貫くことを決意する。


っていう近況報告のほうが気になります。むしろこれをどこかで本にしてないのだろうか。
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by mmkoron | 2008-03-02 21:43 | 書籍

    

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