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源平観戦日記


第2話「佐殿の腹」

■第2話はタイトルそのまんま、視聴者側からも登場人物たちからもいまひとつ見えない頼朝の内心を探るというお話でした。
各登場人物の頼朝への目線は、

・頼朝を担ぎ上げたい気持ち先行で、おとなしく担がれてくれれば彼の意志とかわりとどうでもいい…宗時
・とにかくどんな意図でも私を必要としてくれてることはわかる。地元には絶対に他にいない男性❤…政子
・よくわからないから距離を置いて巻き込まれないようにしておきたい…義時
・今は若い奥さんに夢中…時政パパ
・彼が生きるために私はもう不要になってしまったけどずっと好き❤…八重

って感じですかね。
で、前半で「挙兵する気はない」とか日和見発言してただの厄介者もしくは担がれるだけの神輿のように見えた頼朝が、ラスト数分のところで主人公・義時に「挙兵して平家を討ち❝院をたすけて正しい世にする❞」と密かに伝え、その威厳に気圧された義時が思わず「はいっ」って言っちゃうところまでが今回のお話でした。
■さて。この宣言もどこまで本心なんですかね。
彼がここで唐突に言い出した「正しい世」が、どんな世なのかいまいちわかりません。

その1)「これまでは源氏が栄えていたのに平家に淘汰された。再び源氏の世に戻してやる!」
…ではないですよね。もともと源平並び立ってたけど、保元平治の乱やその周辺の政治ゲームで源氏側が負けただけ。
その2)「貴族の番犬扱いの武士の立場を向上させててっぺんとったるぞ!」
大河「平清盛」がこれでしたね。でも、頼朝が「後白河をおたすけし」みたいなこと言ってたから、これも違うわけです。
その3)「平家の専横を許さない! 再び帝が治める世を復活させる!」
これもちょっとあり得ないですよね。これが実現したら源氏だろうが武士の出番ないですから。

どれもしっくりきません。
あるとしたら「平家の専横を許さない! 再び帝が治める世にして、源氏が正しい形でそれをお支えする!」でしょうかね。
一方、この宣言を聞いてる義時側は、平家の息がかかった連中に見下される屈辱がありますから
「正しい世=東国武士が、平家のいらん干渉を受けずに自治できる世」として受け取っているはずで、だからこそ、ちょっと感動して「ハイッ」って返事しちゃったんだと思います。
このあたりのズレが気になりますね。
そもそも、「正しい世に」というこの宣言すら、頼朝の本心なのでしょうか。
ここでもまだ本心を言ってない気もする。彼が誰かに本心を打ち明けるにはまだもうひと捻りありそうな気もします。
そういう意味では、このへんをまったく無視して「私が必要とされている」という事実だけをモチベーションにしてる政子は、正しいといえば正しいですね。
あの考え方なら、頼朝に裏切られることはありませんから。

■メインのお話は↑のとおりで、あとは本日登場したみなさんのお話など。
■政子と頼朝は急接近。頼朝に目がハート(いにしえの表現)の政子ですが、なしくずしに懇ろになる気はない、ってとこはハッキリさせました。
このあたりが八重との性質の違いなのかな。
八重との対決?シーンは、なかなか辛い場面でした。
八重は、「千鶴丸に会えないなら川に飛び込む」「頼朝に会いに行く途中で父親に見つかったら自害する」という覚悟はあるけど、頼朝に単身特攻をかけるとこまではいきませんでした。政子と同じくらい気が強い女性なんだと思いますけど、基本は一旦受け身な女性なんですよね…。
でもそこでこんなに行く末の差が決まっちゃうのはつらいなぁ。
■そして私また書いてしまうのですが、やっぱり政子と八重がそこまで「この方こそ!」となる魅力が、この頼朝からはわからないんですよね…。
他の東国武士キャスト陣が「頼朝さまと比べると粗野で武骨」って感じもしないし。
かつて「義経」のときは、東国武士側キャストをわりと四角い顔の人で揃えてて(政子も財前直見さんだったので、美人だけど角ばった感じだった)、頼朝が中井貴一だったから、確かに一人だけほっそりしてるわぁ…みたいなのあったんですけど。むしろここで堺雅人を投入すべきだったんじゃないかとか思ってしまう…。
大泉氏がいわゆる美男顔じゃないっていう、それだけの問題じゃないと思うんですよね。「肚の内が見えない」、つかみどころのないキャラだというのは分かったんだけど、そこが男性的魅力につながるとこまではまだ見えてないというか…。この後出てくるのかな。
■次は、大庭景親。伊東と北条の揉め事に「まぁまぁワシの顔を立てて今回は矛を収めてくれや」と的に登場です。極道ぽい…😓
地元の仲間内どうして戦ってうっかり類焼でもしたら、みんな平家本社から怒られるわけですし、ここはなぁなぁにおさめるのが全員にとって良いわけです。
しかし、ここに「源頼朝」という外部者が、自分の意志で動き出したらどうなるのか。楽しみです。
■比企一族も登場しました。頼朝の乳母である比企尼だけでなく、比企能員の奥さんにもうまい女優さんが配役されているので、この奥さんも今後出番が多いのかな。
今の時点では「面倒ごとに巻き込まれるのは御免だよ~」モードで、頼朝大事!なのは比企尼だけですが、
この一家がどこから権力志向スイッチ入っちゃうのかにも要注目ですね。
■あとは平家からは清盛&宗盛が登場しました。宗盛役は、「義経」のときに資盛役でしたね。出世した!(笑)
それ言ったら、今回主役の義時は「義経」で梶原景季だったから、出世も出世大出世ですね😊
登場はしたんだけど、清盛がもうマフィアの大ボスみたいになってて、東国の頼朝云々なんて些事にすぎない扱いだ、という描写だけでした。
この感じだと、平家側はそんなに描かずに「敵の組織」くらいのわかりやすい感じになるのかな。
■そして、次回予告では新宮十郎こと源行家おじさんとか、頼朝の親父のドクロ(仮)を持って現れる文覚とか登場してました。
迷惑な親戚が増えるとか、オカルト系のヘンな人がウマい話を持って寄ってくるとか、頼朝がなんだか宝くじに当選した人みたいになってます(笑)。

■最後にナレーションについて。ある意味キャラが立ってるあのぼそぼそっとしたナレーションが、もしものちの登場人物によるものだとしたら…
源氏最後の姫君である竹御所だったりしたら面白いなと思うんだけど。
竹御所なら主人公である義時よりももうちょっと長く生きてるから、彼の最後も語れるし。違うかな~。

# by mmkoron | 2022-01-17 02:00 | 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」


第1話「大いなる小競り合い」

■今回の大河ドラマも感想を書いてみることにしました。
わたし平家ファンですし、どこまで続けられるかちょっと自信がないのですが、できるところまで続けてみます! とか言って3日坊主状態だったらすみません…😓

■まずはOP!
1話で何がよかったって、OPがよかった。立体絵巻物!
平清盛の「あそびをせんとや~♪」のタイミングではナレーションが入りましたね。ぼそぼそっとした声で、でも結構力強いことを言うのが面白かった。
最後の場面で杓を持った装いの人に、大鎧の武将が立ち向かってる図は、平家VS源氏ってことなのかな。実朝暗殺の場面かな?って思ったけど、だったら向かってる相手は僧侶の装束じゃないといけないし…うーん。
立体を活用したビジュアルはめっちゃカッコよかったけど、一方で、音楽の方は「普通」って印象でした。
ほかの大河からは感じた、「この主題曲でドラマを牽引しちゃる!」的な野心があまりないというか。
BGMで入ってくるクラシックのアレンジも、画面との一体感はあまり感じなかった。ちょっとBGMの方がテンション高い気がしちゃって。
ちなみに私が最近の大河で「かっこええ!」と思ったOP曲は、「花燃ゆ」かな。あと、「西郷どん」もドラマをOP曲が引っ張ってる感じがした。どっちもドラマ本編自体はそんなに好きでもなかったんですけど。BGMだと「平清盛」は本編にすごくはまってたと思う。

■本編 まだ見えない「スタンス」
大河ドラマの第1話って、どの作品でも「この作品はこういうスタンスで描きますよ!」「この時代を、こういうものとして描きますよ!」という宣言がされているという印象を持ってます。
例えば、義経のときは義経を正統派ヒーローとして美しく描くんだなってわかったし、時代についてはそんなに意外性は持たせないのは伝わった。
清盛のときは、平安末期を混沌の時代として描くこと、清盛をその混沌エネルギーのカタマリとして描くことは伝わった。
今回は「この時代をこういうものとして描きます」はなんとなく受け取れたけど、作品スタンスはいまひとつキャッチできませんでした。
敢えてそういう「とらえどころがない」感じにしてるのかな。
「時代」については、土着豪族のご近所感や朗らかさを描きつつ、それが実は脆いもの、冷たい土壌の上に成り立っているものである感じはすごく出てたと思います。
「じさま」と呼ばれる伊東祐親のもとに、親戚関係にある小豪族がまとまって、和気藹々…と見えて、
じつはこの伊東氏の利権がめちゃめちゃ強くて、逆らえない。じさまの背景にあるのは平家の存在。
若者の中には、平家との関係で地元の権力順まで決まってしまう頭打ちの現状を面白く思ってない連中もいる。
その連中にとって「現状を変えてくれるかもしれない」切り札が源氏の嫡流である流人・頼朝。
……ってことですかね。
ただ、「ものすごく切実な動機」としては描かれてません。
「義経」とか「平清盛」で主人公が自分のアイデンティティの問題に1話時点から対峙させられてたり、「動かないと、変えないと、俺たちは時代の奴隷にされる」みたいな切迫感を出してきたのと比べると、不要不急の戦乱(^^
「平家に近い者だけが栄えて、ほかは虐げられる」って宗時たちが言ってるけど、「虐げられる」描写は出てこないわけですし。

■薄氷の下の冷たさ
とはいえ、義時の言う「けっこう穏やかに過ごせてるじゃないですか」が、じつは薄氷の上の平穏であることが描かれます。
頼朝と八重の子どもの描き方は残酷でしたね。他の作品ではいつもおくるみに入った赤ちゃんでしたが、今回はちゃんと子役が演じてたから、連れ出されてひっそり殺されるおそろしさが倍増でした。
水に沈められる場面そのものは描かれなくて、着物の袖?か何かだけ握った郎党が川原に佇んでる…ってのはよかった。怖さUP。
平家に知られちゃまずいから、首をとることもせず、存在そのものが消されちゃったんですね…凄みがあります。
一方、母親である八重には緊迫感がなかったわけです。ここで子どもを自分の傍から離したら殺される!という危機感はなかったからこそ、見送っちゃった。
京にいて、平家の近くにいた爺様は状況がわかっている。皆を束ねる「爺様」をおおらかに担ってると見せて、めちゃめちゃ神経とがらせてる。
北条の親父も、若い奥さんにぽやぽやしてるとはいえ、時勢感覚はあるし「爺様」の本当の恐ろしさもわかっている。
でもその他の面子は、東国の様子しかわからないから、頼朝の危険さ(と本当の価値)はよくわかってない。
「平家の横暴を許さない!」と立ち上がろうとしてる宗時たちが、頼朝を神輿にして立ちあがったら、「爺様」と殺し合いになることを認識しているのかな。そこはドラマを見てても現時点ではわかりませんでした。認識できないほどバカではないとも思うんですよ。
現状認識が甘いけど、でも彼らは、八重の子どもが水に沈められたとき「あーそうなったか」と冷静な眼差しを向ける残酷さも持ち合わせてるわけですものね。
とはいえ、人物ごとにかなり現状認識が違ってて、起きていることへの受け止め方もバラバラ。
わざとその「バラバラ感」をいまは描いてるんだと思うけど、ここが「このドラマをこういうものとして描いていきたい」っていうスタンスに繋がっていくのかな。
鎌倉殿の「13人」って、歴史上の人物、つまり「その人が時代を変える切り札になる」という存在感としては「小ボス」くらいですよね。その人たちをメインにして描こうとしたとき、何らか方針が必要だろうと思うのですが、それをどこに置きたいのか。
私にはまだいまひとつつかめてないので、今後しばらく注視していこうと思います。


■登場人物のこと
最後に登場人物への感想を。
〇ナレーション
…ぼそぼそっとした話し方は賛否ありそうだけど、でもこの話って、最後ほんとどんどん悲惨になっていくじゃないですか。ほとんど死に絶えて、誰が勝ったんだっけ?って状態になっていくわけだし。終盤には、女性の声でぼそぼそ話しかけてくるこのナレーションは救いになるような気がします。
〇義時 
…真田丸のときも主人公は終盤まで「巻き込まれ型主人公」でしたが、今回もそんな感じですね。義時もかなり後のほうまでは受けの芝居に徹する感じだろうし、小栗旬氏は適任だと思いました。
〇頼朝
…巧いけど、政子が瞬間的にメロメロになる説得力は弱いなぁ…。他の人とテンションが違う、ってのはわかったけど「めちゃめちゃ気品がすごい」みたいな感じではなかったし。どうしても石坂浩二と比べちゃうからかな。淡々としているように見えて、内心に凄まじい怒りを抱えてるという描写はよかった。今は役者さんがというよりもシナリオが、という段階ですが。
〇政子&実衣
…コメディエンヌとしては実衣のほうが期待値高いと感じました。ちょっとしたしぐさが面白い。
政子は……現時点でちょっと演技が浮き気味というかわざとらしいかなー。「平清盛」のときに時子に感じた「あっ、この人だけ浮いてる」感に近い。
でも、「義経」で巴御前を演じていたときに、めっちゃモリモリご飯食べてる様子とか、「美しい女武者」ではなく、美人だけど田舎臭い粗野な感じで演じてたのがすごく良かったから、今回も期待したいです。
〇時政
…愛すべきダメ親父感がいいですね。わざとらしくなくて自然で、流石に巧い…。「そう?」が可愛い😊
野心を小出しにしてくるキャラなのか、若い後妻さんに突っつかれて動くのか、今後が楽しみ。
〇宗時
…実は親父以上にこっちがポンコツキャラかも(笑)。
「理想に溢れた真面目なお兄さん」みたいな印象になりがちな人物を、ちょっとこういう滑稽な感じに描くのはいかにも三谷脚本!って感じですね。でもこっちは好感度高いです。
〇三浦父子
…出番は多くなかったけど「食えない存在」って感じはしっかり出てました。このドラマは義時が主役だから、三浦氏は滅ぼされる前にドラマが終わるのかな。
実朝暗殺のところをどう描くのかは、後半の見どころですね。永井路子氏の小説だと「三浦義村が義時ごとまとめて暗殺しようとしたけど、土壇場で義時が病欠したので、実朝しか殺せなかった」だったと思いますが、このドラマだと義時と義村はわりと仲の良い友人っぽい(とはいえ頼朝のこと義村は爺様にバラしてるけど)スタートですし、どうなるのかな。
〇八重
…あー私が苦手なタイプの三谷脚本女子キャラ(可憐に見えてちょい毒きつめの不思議ちゃん)だ~! 真田丸の幸村の本妻さんとか。
今後、彼女はどんどん惨めな立場に追い込まれていくわけで、みんな大好き新垣さんがどう扱われていくのかは見ものですね。言動次第で好感度は変わっていくだろうな…。「自分で決断し動く政子」との対比に使われるのは可哀想なので、それは避けてほしいなぁ。
〇清盛、後白河、義仲
…いまのところ、このあたりの人物には、意外性なく「みんなが想像するキャラ」そのまんまで配役された印象を持ってます。
知名度の低い東国の面子をしっかり描写するために、都や木曾の人物を描き込む余裕はないのかなーと。平家好きだからちょっと残念なのですが、でも今回、維盛役がちゃんとイケメンなのでそこは楽しみ。維盛って、なぜかドラマだと「めちゃめちゃ顔がいい」人あててもらえないんですよね…演技力ゼロでもいいから顔だけはめちゃ良い役者さんを当ててほしい枠なのに(笑)

# by mmkoron | 2022-01-10 15:05 | 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」


MOON SAGA 義経秘伝 第二章(教経篇)

****ネタバレありの感想・レポートなので、未見の方はご注意を。****

2014年上演(まみころが観劇したのは8月16日明治座)/
主演(義経役):GACKT  平教経:悠未ひろ 平知盛:川崎麻世 
伊勢三郎:ウダタカキ 弁慶:古本新乃輔 
佐藤継信(兄):西海健二郎 佐藤忠信(弟):古堂たや 陽和:初音/黒田有彩(Wキャスト)
伝内教能:鈴之助 菊王丸:堀江慎也  銀狼丸:君沢ユウキ 
源頼朝:大橋吾郎 北条政子:鈴花奈々 梶原景時:木下政治


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■ファンの人からは怒られるかもしれませんが、最初に書いておきます。
今回の劇の観賞は、
18000円を払って、
素晴らしいキャストと、豪華かつ最新鋭の舞台装置で繰り広げられる
ガクトさんの作り上げた壮大な中二病世界に耽溺する …というプレイ。

■私は文学少女崩れなので、劇を見るときって、伝えたいテーマをどう舞台に具現化してるか、みたいなとこを見ようとしてしまいます。が、今回の「テーマ」は、別に「新たな義経像」でもなく「人間観・人生観」でもなく、ガクトさんが考える「美しくカッコよい世界」「美しくカッコよい舞台」とは何か、なんだろうと思います。
脚本は、おたくな私とかにとっては「こってこてのテンプレ展開」なんだけど、メインはストーリーではなく、それを形にするときの装置とかビジュアルとか音とかのほうなので、寧ろ脚本がシンプルなのはちょうどよいのかもしれません。正直なところ、「これだけチープな話を、これだけゴージャスにできるなんてすげぇ!!」っていう驚きがデカかった。

【お話の内容】
■前回の上演が2012年。友だちと観にいって、「これどこまでの話をやるのかしら」と思いつつ見てたら最後に「義仲篇 完」の文字が出て来たときの「…続くのかい!」という驚きからもう2年です。
前作を見てないという方も多いのではと思いますが、冒頭にスクリーンにプロジェクトマッピングだっけ?あれで「前回までのあらすじ」を映し出してくれるのでご安心を。
このあらすじは、文字だけではなく映像と音声で説明してくれますので、飽きない映像です。装置を必然性をもった状態で活用するところは、センスいいと思います。「使ってみた」だけでなく、使い方がうまいなーと。

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当初同じ源氏側の味方だったはずの義仲が、源氏の総大将・頼朝とその妻政子からいいように利用されすぎてついにキレて、敵になった。義経は義仲と仲良しだから戦いたくなかったけど、義経に封印されてた鬼の力が開眼しちゃって、義仲を倒しちゃった。鬼の力が発動しなかったら自分のほうが殺されてたので仕方ないんだけど、でも義経は傷ついた。
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前回までのあらすじは、まぁこんな感じです。
で、ナレーションで、この出来事が義経に与えた傷がとても深かったので、彼の様子もすっかり変わってしまった…みたいなことを言います。実際、前回はちょっと坊やっぽいショートカットのビジュアルでしたが、今回はなんだか天野喜孝氏の絵に出てきそうなうねうねロングのちょっと妖しげなルックスになってます。性格も、前はちょっと怯懦なトコのある人物でしたが、今回は怯懦というよりも、厭世的だったり熟考しすぎで後ろ向きに見える…って感じですかね。このへんについては、また後のほうで書きます。
■そんなこんなで、若干陰鬱なキャラになってしまった義経さん。
一の谷ではまさかの逆落とし戦法で大勝利をあげたのですが、いまだ心の傷は癒えず。
そんな彼ですが、ひょんなきっかけで、平家側の伝内教能という武将と知り合います。
■「伝内教能って誰?」とお思いの方も多いかと。私もそうでした。
なんとこの人、田口教能の別名なんだそうです。あの人です、壇ノ浦でやらかしてくれた阿波民部重能。彼の息子です。屋島で伊勢三郎にハメられて源氏側に寝返った、田口教能さんです!
ちなみに、演じてる役者さんは、大河「清盛」で経盛役でしたね。
■話を元に戻します。
じゃあこの劇でも途中で裏切るのかな?と思いきや、思わぬ方向に話は進んでいきます。
この教能が伊勢三郎と顔見知りだったこと、義経と教能がわりと気が合ったことをきっかけに、この出会いがさらには平家側の実質の総大将・知盛と義経をつなぐことになり、知盛と義経は和平を結ぶことにします。
平家最強のモノノフと呼ばれる教経は主戦派で、当初はこの和平が気に入らないようでしたが、何度も義経主従と酒を酌み交わすうちに、元々知盛を兄とも慕っていることもあって、だんだん心が和らいで行くのでした。それにしても、じゃあ仲良くなろう!ってときに、前作も今作もしょっちゅうノミニュケーション発動ですな。義仲とも飲んでたような。
■この和平のことが、景時によって鎌倉にこっそり伝わります。
激怒する政子。頼朝はショックを受けてるみたい。
えっ…義経、和議結んだこと報告してないの…?
知盛のほうは宗盛や教盛・経盛たち長老格をすでに説得できてる描写があるのに。お前がこの数ヶ月やってたことは飲み会だけか。という思いもこみ上げてきます。そんな根回しの下手さまで従来のイメージを尊重しなくてもいいっすよ…(涙)。
で、どうしても平家を殲滅し、この国を自分の影響下にすっぽり置きたい政子は、なんだか怪しげな降霊術みたいなので、「エン」という人の弱い心に張り込み、その人格を奪い取るという魔物を呼び出します。
■ここでターゲットになったのは教経でした。
なぜ教経?あのひとめっちゃメンタル強そうじゃん!!
…って平家物語好きは思うわけですが、このお話の教経はちょっと違います。
この世界の「モノノフ」は、みな1つ特殊能力を持っています。弁慶なら「瞬発的に怪力を発動」。伊勢三郎は治癒、知盛は人の頭の中をのぞき見る…などなど。
で、教経は予知夢の能力があるのですが、今は戦時下です。彼は他人が死ぬ夢にいつもうなされ、いつか自分の死も見てしまうのではないかという恐怖に内心怯えていて頭痛に悩まされ、内実は情緒不安定なのです。しかも、義経と戦う夢、繋いだ手を放してしまう夢を見てしまって、すっかり疑心暗鬼。
■そんな彼に、「人の心を錯乱させる」といった力を持つ景時が接近しました。
景時は、実は鎌倉側をスパイするために心ならずも平家を離れているのだ、ホントは味方だ、と教経にかきくどきます。そして「知盛は、和平の条件として自分だけの身の安全と栄達を鎌倉と取引している裏切り者だ」と耳打ちします。
自分がスパイである証拠は、鎌倉に護送された重衡が殺されずにいることだ、殺されないように景時がフォローしてるんだと。…なんとここで突然重衡の名前が!(ここだけだけど)
景時がもともと平家側だったこともさりげなく設定に利用してるんですねー。
■そんなこんなで、もともと不安定だったところに、景時によって心にキリキリを穴をあけられてしまった教経さん。予知夢による頭痛や精神錯乱を緩和してくれるのは、「他者の能力を押さえ込む」力のある伝内なのですが、伝内が源氏側とすっかり仲良しになっていることもあって、教経は伝内をも拒絶してしまいます。
その心のスキマに「エン」が入り込み、ついに…

ジェノサイダーと化した教経と、その部下菊王丸によって
敵も味方もHPゼロよ!


誤解が重なって菊王丸によって佐藤兄が殺されたのを皮切りに、
知盛の和平案に賛同していた長老ズと宗盛、知盛子飼いの銀狼丸、そして知盛までもが惨殺されるという事態に。知盛が弱いのか、教経が強すぎるのか、けっこうあっさりやられちゃったよー(涙)。
ああ、こんなときカイヤさんがいてくれたら勝てたかもしれないのに…。
■さて、あとは大体予想がつくと思います。暴走する教経(何が原因なのか、義経は最終戦間際までわからない)を、もう義経は倒すしかありません。菊王丸VS弁慶・伝内・伊勢・佐藤弟、教経VS義経です。
菊王丸つえー。彼はカミナリを使う能力を持ってるっぽいのですが、

カミナリ VS 瞬発怪力+相手の能力封じ込め+治癒+(佐藤弟の力が何だったのかわからん…)

って、どう考えても弁慶たちのほうが強そうじゃないですか。なのに勝てない。
最終的に伝内が身を挺して「おれごとやれー!!」少年誌的捨て身攻撃をしてくれたことにより(ここもかなりコテコテでキン肉マンの友情パワーとかそのへんを髣髴させる)、辛うじて勝利しました。でも、菊王はちょっと「狼に育てられた少年」系というか、頭が子どものまま凶暴性だけ育っちゃったようなキャラで、教経を慕ってくっついてただけなので、ちょっと哀れですな。
■そして義経VS教経の最終戦。
でも、義経は相変わらず「戦いたくない…」の人なので、もともと主戦派&現在「エン」に乗っ取られてイケイケドンドンモードの教経の猛攻に防戦一方です。
そんなところに、もう完全にそのために出て来たとしかいえない、義経を慕う妖のアルビノ少女・陽和(ひより)
がひょこひょこ間に入ってきます(ほんとにひょこひょこ入って来たんだよ!)。
で、義経を挑発したい教経によってプスリとやられて絶命。ほんと刺されるためだけに出て来た。
ここから無垢な陽和の死に義経絶叫⇒封印解けて義経さんの鬼が目覚める⇒教経コテンパン の王道展開が始まるのです。
■エンVS鬼の最終決戦は、役者の殺陣ではなく、LEDダンスの演出で、両者が瞬間移動を繰り返しながら戦う様子を表現してました。この活用も巧いっすね。観客も最新の技術見れておトク感あるし、役者はすこし時間に余裕できるし、暗転した中でのダンスになるので、舞台装置も動かせるだろうし。
■で、最後。人外の力をフルスロットルで使っちゃった二人はライフストリーム(FF7)の底のよーな場所にいます。ようやく自分を取り戻した教経は、しかし最早自分には帰る場所がないと嘆きます。
それでも一緒に帰ろうと言ってくれる義経の優しさに感謝しつつ、義経だけを元の世界に行かせるのでした。教経が予知夢で見ていた「繋いだ手を放す」は、これだったのですね。
こうして義経はまた大切な人を失いながら、戦う運命を背負っていくのです。
■…とまぁいろいろ端折ったけどこんな話!

【ストーリーについて】
■上記のように相当コテコテです。ストーリーだけじゃなくてセリフもかなりテンプレ台詞満載。教経との
「お前のその優しさが…ボクは大嫌いだ」
「…なんだよ、それ(照れ&不貞腐れ)」(無言で杯を傾ける)

みたいな会話とか、乙女ゲーを夜中にひとりで進めてて、
なんかすごいスペック高い男子キャラと交わされる
「お前みたいなナマイキな女、今までいなかったぜ」
「…なによそれ…!(ぷんぷん)」

みたいな会話を見てるときくらいに、ふるえがとまりませんでした。
テンプレはすべてやりつくすくらいの勢いの消化率だったと思います。なんかもう、「なにあれー」と馬鹿にするとかそんなのムリ、突き抜けててむしろ神々しい。
■一方、前も書いたんですけど、やっぱりこの義経がどうも好きになれない。
みんな義経を「やさしい」って言うんだけど、まさに「行動や決意を伴わない優しさって無力だわ」って感じでして。教経との戦いも、戦わざるを得なくなったから戦っただけだし、和平って言っても、結局鎌倉に報告するわけでも頼朝とケンカしてでも和平維持を決意してるわけでもないし。
教経が暴走したから和平ブチ壊しになったわけですが、そうでなくても結局破綻してただろうな…。
このあと終章とかで義経がこの中途半端な優しさの清算をさせられる展開なら納得ですが、そういうわけではないんだろうな。「優しさ」観が、この物語の書き手であるガクトとは合わないな、と私は感じた。

【演出について】
■プロジェクションマッピングの使い方は、前回同様洗練されてます。
異能者の戦い、という、生身の人間がやるとショボくなりがちなところにうまくコレを活用して、カッコよく見せてる。
歴史ファンタジーなので、歴史的な出来事の説明も必要になりますが、そこをうまくプロジェクションマッピングで解説してました。地図出したり文字出したり1作目の映像出したり。
■私はそんなにあちこちのお芝居を見てるわけではないので(年間2本とかしか観ない)比較対象があるわけではないのですが、プロジェクションマッピングで場面転換をくっきり出すことで、このお芝居の特徴(私は弱点のように感じた)「場面転換がやたら多い」に対して、メリハリをつける効果はあったと思います。
ただ、ほんとに場面転換多かった。終盤直前までは、マンガで言うと見開きごとに場面変わってるくらいのテンポ。それで3時間だから、頭が疲れて通常よりも長く感じたってのはあったなぁ。

【アクション】
■舞台に2段階の坂道がつくられてて、それを利用したアクションが多彩で面白かったです。この坂道のために、キャストのほうはケガ人続出のようですが…。
・坂道上部から、仰向けに、手前側にどーんと倒れる(倒れてずるずるっと坂を落ちてくるわけです)
・すべり台のように使う
・坂を転がり落ちる
などなど。
ガクトはワイヤーを使っていわゆる「八艘跳び」をやってくれました。くるくるっと旋回しながらジャンプすると、敵が吹っ飛ばされるとか。
ワイヤーが頑丈すぎて丸見えだったのは残念といえば残念ですが、でもかなり動き回ってたので、強度的に仕方ないんだと思います。
■元宝塚男役の女優さんが演じる教経も、動きがきれいでした。
終盤の義経とのタイマン勝負も動きにキレがあって、スマートな戦い方。あと、エンに操られるときのマリオネット演技が流石のウマさでした。基礎力が違うんでしょうね。

【登場人物】
■私は平家好きなので、平家中心で書きます。
教経は白銀っぽい衣装で、クールな感じ。役者さんのスタイルが段違いによいので、「並んだ登場人物がことごとく公開処刑(友人談)」。
ただ、平家物語を読んでると、もっと体育会系なイメージを持つ人のほうが多いと思います。この教経は、結構正確はよく言えばツンデレ、悪く言えば若干ヒス気味。だから、この教経はかなり新鮮でした。
伝内に力を抑える手伝いをしてもらってて、普段から伝内の膝枕で寝てる…というシーンなど、伝内とやたらスキンシップしてたり、「オトコオンナ」「女のような顔」と言われてたりしたので、最初、「隠してるけど実は女性」設定なのかな?と思ったりもしましたが、特に何も言うことなく終わったところを見ると、「キレイな男性」だったみたい。
終盤までは伝内とかなりベタベタしてましたが、最終戦とエピローグの回想シーンで急速に義経との関係が密接になってました。ここはどっちかにそろえたほうがよかったような気もするが、しかし別にBLじゃないんだから、そこを掘り下げる必要はないか。
■ストーリー本編の中で義経と親交を深めてたのは、むしろ知盛でしたね。「兄弟」って呼び合ってたし。
わたくし、初めて川崎麻世氏をカッコイイと思いましたよ…。重みのある感じかつ誠実そうな人柄が出てて、この物語の知盛役としてピッタリだったのでは。直接戦闘ではいまいち弱いとこも含めて(笑)。
知盛と教経との関係は、ある意味、壇ノ浦での「知盛:もう無意味な戦いをするな  教経:では無意味でないように大将と戦ってくるわ」会話のような、「噛み合ってない」感を継承した描かれ方だといえるかも。
■伝内は非常においしい立場でした。教経の頭痛を止められるのは彼だけなので、それを使って彼が泣く泣く教経を倒すとこに役割を果たすのかな、と思ったりもしましたが、でもそこまでやると主役食っちゃうもんね。平家物語の世界では、田口親子はせっかく平家を裏切って源氏側についたのに、源氏側では裏切り者は信用できない的扱いを受け、結局早々に排除されてしまうわけです。そういう意味でも、裏切り者になることなくかっこよく退場してる今回の扱いは、おいしい役だったかも。
■菊王・銀狼は…。菊王は平家物語にも出てくる教経の側近、銀狼はオリキャラです。
この2人の「子どもの頭脳のまま成長し、舌足らずな口調で喋りケモノのように歩き、しかし戦闘力だけ研ぎ澄まされ凶暴」って設定が、私はコテコテすぎてもうおなかいっぱい…って気分だったのです。が、同行の友人が「佐藤兄弟とキャラかぶっちゃうから、平家側はこういうキャラにしたのかねぇ」って言ってました。
なるほど、納得!
しかし、陽和の「アルビノの透明感のあるビジュアル、言葉を話せずただぽかぽかと陽だまりのように微笑むだけ」みたいなキャラを見てると、キャラ立て目的だけでなく、やっぱガクトさんの趣味なんだろうなとは思いますが…。
で、この陽和、わざわざオーディションまでやって、ニュースサイトとかでは「ヒロイン」とか言われてましたが、役割はヒロインではなくどちらかと言うと「マスコット」ですね。
ヒロインは…カドが立たないように明確なヒロインはいなくて、今回でいうと教経がそれに近かったのかな。
■義経の部下達で特筆すべきは弁慶でしょうか。声が甲高いのも、お笑いキャラなのも、ちっさい弁慶(ほかが高身長すぎるのかもしれんが)なのも愛嬌があってよいのですが、
弱いのだけはいただけない。
瞬間的に怪力になる設定だったはずなのに、なぜ菊王丸に全然勝てんのんじゃー!!
中盤で、己の中の力に苦しむ義経に対して、「義経が鬼になったときは、わしが殺してやる」と伝えてましたが、無理だと思うよ弁慶…
■あとは鎌倉の頼朝・政子・景時。頼朝と景時がこの劇の「笑い」の大部分を担ってくれてました。
源氏側の笑えるシーンは観客としての義務感(笑)で笑わざるを得ない場合もあったのですが、こっちは素直に笑えるときが多かったな。
頼朝は序盤では義経を信頼している雰囲気でしたが、終盤で「もう誰も信用できない…」となってます。こりゃ、政子がラスボスですかね。景時は…義経主役のドラマだと、梶原景時ってかなりの確率でこういう「コスい悪役」を担わされるのですが、今回も安定のコスいキャラでした。ちなみに景時役の役者さんは、大河「清盛」で大庭景親役をされてたようです。へー。石橋山の合戦で頼朝を見逃してその後頼朝に重用されたのが梶原景時、最後まで頼朝に抵抗して負けて殺されたのが大庭景親ですから、なんだか対称的な役を両方されてるんですねぇ。

■今回のお話で、義経が平家を倒し(本人的には不本意だったわけですが)、しかし頼朝との亀裂が入ったところまで進みました。これは、また2年後くらいに平泉篇をするのかなーって気がします。
今度は誰が宝塚女優枠になるんですかね。藤原泰衡かしら?
「義経:お前に殺されるなら本望だ、さあもう終わりにしてくれ 泰衡:義経、すまない…!」みたいな。
私は教経ではないので、予知夢は見られませんが…。
# by mmkoron | 2014-08-17 14:11 | その他映像・劇 等


能・狂言・平曲による平家物語の世界 語りの伝承~巻十七

2014年8月2日/於横浜能楽堂/13:00開演 15:30終了

【演目】
狂言「吹取」(野村萬斎 深田博治 飯田豪)
平曲「千手」(須田誠舟)
能「千手」 (桜間右陣 ほか)

■前に「維盛」を見に行ったのっていつだっけ、とこのブログで確認したところ、もう5年も前だったんですね。いやーおどろいた! そんなわけで、久々に見てきました。
毎年、このくらいの時期に、平家物語を題材に平曲と能と狂言を上演している会です。
前と変わらず、なにかの教室の仲間なんですかね、ほとんどのお客さんは知り合い同士って感じです。私はもちろん完全アウェーなのですが。
■変わってたのは上演順ですかね。確か前に見たときは 平曲⇒狂言⇒能 の順番だったかと思うのですが、今回は 狂言⇒平曲⇒能 でした。今回は、平曲と能の内容(平家物語中の、扱っている箇所)がほぼ同一だったので、連続にしたのかなと思います。

■まずは狂言。今回わたくし運がよかったのか悪かったのか、1列目だったので、萬斎さんにあと3M!くらいの距離で観ることができました。「花の乱」以来の萬斎FANとしてはラッキー。
■ここであらすじのご説明を。
長年独身でそろそろ身を固めたい武士?の男が、清水の観音様のところでご縁がありますようにと祈願してたところ、「名月の夜に五条の橋の上で笛を吹きなさい、そこに現れた女性があなたの運命の女性です」ってなお告げをうけました。しかし彼は笛の心得がないので、知り合い某さんに依頼して自分の代わりに吹いてもらいます。この日、月見の宴にお呼ばれしていたその知り合い某さんは、仕方ないと来てくれたのですが、笛を吹くのを忘れて月に見入ってウットリしちゃったりで、男をやきもきさせます。
ドタバタしつつも、なんとか笛を吹いてもらったら、お告げどおりに被衣姿の女性が現れました。
んが、彼女は笛を吹いた某さんのほうにふらふらと、いや、力強く(笑)突進してしまう。何度自分のほうに連れてこようとしても彼女が某さんのほうに行っちゃうので、男は観音様の決めた縁があるのは自分のほうだから、と必死に女説得する。そんなとき女の被衣がはらりと落ちて…。
彼女の顔を見て絶句する男2人。そこから男2人の醜い押し付け合いが始まるのですが、男の説得にほだされた女のほうは、独身男を追っかけて…。
■とまぁ、こんな感じです。萬斎さんの笛の演奏を聴けたのはなかなか貴重だったかも。吹く真似だけするのかなと思いきや、ちゃんと演奏してたので「おおー」と思いました。
■助っ人の某さんが月見に熱中しちゃって、独身男がちゃんと笛吹いてよ!とツッコむシーンなど、ボケとツッコミの内容がわかりやすくて面白かったです。女の顔(舞台では、オカメの面をつけてます)を見て男共が絶句するシーンではお客さん声をあげて大ウケでした。
で、これのどこらへんが平家物語にちなんでるのかっていうと、多分「五条の橋で笛を吹く」つながりかと思われます。ストーリー上で牛若丸を引き合いに出すシーンがあるわけではありませんが。

■次は平曲。前の「維盛入水」のときも思ったけど、いやー相変わらずスローペースで長い!!
すみません、何度か船出しかけました。朗読的なところと、謡うようなパートがあるわけですが、その抑揚が、こう、眠りにいざなうんですよねー^^;
内容は、巻十「千手前」のほぼそのまんまです。覚一本のテキストよりも、修飾が増えてる気がしました。

■最後は能「千手」。これはオリジナル新作ではなく、元々ある演目のようです。
狩野介宗茂に預けられている重衡のもとを千手が訪ね、彼が頼朝に要望していた出家の願いが承認されなかったことを伝えます。がっかりする重衡を慰めようと、狩野は酒宴を催し、千手は朗詠する。重衡は千手の心のこもった慰めに癒されて、琵琶を合わせてくれる。しかし、その後重衡は南都に送られ、千手は泣く泣く彼を見送った……平家物語に描かれる内容そのまんまですね。
重衡はほぼ座ったまま、狩野もあんまし動きがなく、千手が舞うくらいがわずかな動きでした。このお話は場面もずっと同じ室内ですから、能に慣れてない私には、淡白すぎてあんまし面白みはなかったかな。なるほど、能に「●●さんの霊が××の姿で過去の自分を語りにきた」って設定が多いのは、こういう理由なのかと納得。
確かに、そのまんま平家物語をやっても、内容も知ってるからかなりだるい。すこし意外性やストーリーの面白さを持たせようと思うと、夢幻能になるわけか。
■あと、今回は重衡役の方が非常に若く見えました。中学3年とか高1くらい…かな?
一方、千手の演者はベテランだったので、その差が、ストーリーに合ってなかったんじゃないかなとか素人目に思いました。このお話としては、やっぱり重衡のほうが包容力があって上手でないと「ええ話や~」にならないんですよね。千手の心を込めた慰めに、都人の貴人(鎌倉にとっては)・重衡が心を開いて受け容れるという。
でも、今回重衡役が若かったので、千手が坊やの世話を焼く百戦錬磨の銀座ママっぽく見えるというか。イマイチ2人の心情が交わってる感じじゃなかったんですよね。
こういうのって、時間が熟成させていくものなんだろうな。スキルでどうにかなるもんでもない気がする。
おそらく期待の若手だからこそいい役に抜擢してるんだと思うので、平家物語のなかにちょうどいい演目があるといいですねぇ。
■あ、役者さんのことばかり書いてしまいましたが、演奏のほうも趣深くてよかったです。特に今回気になったのが笛! その前の狂言のほうで萬斎さんの笛を聴いてるわけですが、そちらでは吹き始めのときに演技なのか何なのか、すぅっと息を吸うのがかすかに聞こえるんですよね。でも、能のバックで演奏されている方のほうはそれが聞こえない。でも、座ったままの姿勢であの力強い音が出てくるわけで、そこがすごいと思いました。そういや維盛は笛が得意でしたね。肺活量は結構あったのかしら、とかいろいろ妄想がよぎったのでした。

■まったくの余談なのですが、今回の帰りにふと、そういえば私の母校(高校)に能楽研究部があって、仲良かった友だちが入ってたことを思い出しました。1こ上にずば抜けてうまい先輩がいて、卒業式か何かに高砂を謡ってくれたっけなぁと思い出して、名前を検索してみたら、なんとプロの能楽師になっておられた。すごい…。やっぱり高校生の頃から「すごい」人って、それでやっていけるもんなんだなと妙に納得しました。
# by mmkoron | 2014-08-04 01:34 | その他映像・劇 等


第41話「賽の目の行方」

■いよいよ平家の転落がじわじわ始まる…ってのがこのあたりですね。
前回で後白河との調整役を担っていた滋子が死に、清盛は我が娘・徳子と高倉帝との間に皇子が生まれ、後白河の影響力を気にしなくてよい立場になれることを待ってる状態です。
ところで。
このとき高倉帝は15歳。徳子のほうが6歳ほど年上です。
まだ15なんだから急がなくていいじゃーんって思いたくなるわけですが、実はこの時点で高倉帝にはめでたく第1子(皇女)が誕生してます。しかも、この皇女のお母さんは、高倉帝の乳母です。
滋子が倒れた頃にこの皇女が誕生してるのですが、みんな「よかった…女だった…」とほっとしたでしょうね。特にこの乳母が(あってはならんことになっちゃっるわけなので)。
高倉帝って、後白河と清盛の間で苦悩する役回りで描かれることが多いので、繊細な青年イメージなわけですが、20そこそこで崩御してるとは思えないほど子どもがいたりもします。
まぁ帝のお仕事のひとつではあるわけなので、お役目に対して忠実な人だったのかもしれません。

■さて、今回はインターバル的な回で、あまりドカンと盛り上がるわけではないトコロです。
このドラマ、やっぱり1回1回の盛り上げはあんまし巧くないような気がします。特に中盤以降、視聴者の興味関心よりも「全体の流れを考えると、ここは描いときたい」を重視した結果、受け身で視聴してるとちょいダルい展開になってる回が多い。私とか、毎回じっくり観てる層には苦ではないんですけど。

■最愛の女性・滋子を失い、後白河の今様歌唱力は、ついに「極めた」域に達したそうです。乙前はそう太鼓判を押します。目指す道と音が重なったんですって。目指す道、というのが何なのかよくわからないわけですが。乙前、ほんとマジで後白河をおだててその気にさせるのやめて…。
■滋子を失ってしょんぼりしてるのは、その子・高倉帝も同じ。
そんな彼に「建春門院の血を引く皇子を、必ず産みます」と伝える徳子。ここで高倉帝にプレッシャー与えるのかよ!って思ったけど、そういう意図ではなく、母を失った高倉に、母の血を濃く引く子どもを産みます、と励ましているんですね。
■さて、この皇子誕生でイライラしてるのは清盛。皇子誕生祈願のため、厳島へのご祈祷と捧げものを欠かしません。清盛がそんなに信心深いのも違和感ですが、こればっかりは授かりモノだから、祈願するくらいしかできないですもんねー。
そんな清盛に不穏な噂が届きます。
後白河法皇が、我が子「九の宮」「十の宮」を呼び寄せ、高倉帝の養子にしたというのです。このふたりは、母親の身分が低いこともあり、僧にする予定になっていた皇子たちです。
それを養子にするというのは、「徳子に皇子が生まれなかったときのための、保険」みたいなもの。でも、徳子も帝もまだ若いわけですから、平家側からしてみれば「大きなお世話」ですよね。
しかも、高倉の子でなく自分の子を持ってくるあたり、権力を維持したいという後白河の権力欲もミエミエなわけです。

※ちなみにこのふたりの宮ですが、結局は僧籍に入ってます。

■後白河への牽制を清盛から命じられた重盛。
彼は、弟・知盛を蔵人頭(帝の側近役)にしてほしいと推薦しました。自分たちが知らないうちに、勝手な決定が帝に行かないようにしたかったのでしょう。非常にまっとうなやり方ですな。
しかし、愛する滋子亡き今、政治的空気を読む気なんてさらさらない後白河が、平家に気を遣うはずがありません。蔵人頭の役には、後白河側近が就いてしまいました。
平家に遠慮する気なんてないよ、と意思表示してくる後白河側ですが、清盛は「あっそ」とばかりに、なんと比叡山のトップ・明雲との連携を始めます。
かつて「強訴」で散々政治に口を出してきてたのがこの比叡山勢力ですが、こうなったら、強訴よりも後白河の口出しをなんとかするほうが急務、ってことですな。
清盛はすっかり政治家というか、根回しと陰謀の世界の住人になってます。外から見れば、藤原摂関家が平家にすりかわっただけですよね。

■そんな清盛や平家への不満を溜め込んでいくのは、地方の武士たち。
武士である平家が政治の中枢に躍り出たものの、相変わらず税の取立ては容赦がなく、生活がよくなっていくという実感も展望も持てません。
この1176年は、滋子だけでなく高松院姝子内親王や、九条院藤原呈子も亡くなっていて、その法要の支出をまかなうために、追加で税を取り立てるというのです。
ちなみに、高松院は鳥羽院と美福門院の娘(八条院の妹)で、二条帝の中宮でした。九条院は、藤原忠通の養女で近衛天皇(鳥羽院と美福門院の子)の中宮。
ちなみに高松院と滋子はほぼ同じ年齢で、その10歳くらい上が九条院です。こういうの見てると、女の厄年って当時は的を射てたんだなーとか思います。
■って、話が脱線しましたね。
東国でも、追加の課税で、北条時政ががっくりしてます。そんな父の様子を見ながら、今日も頼朝の屋敷へ向かう政子。藤九郎をひっつかんで、先日触ろうとして頼朝に怒鳴られたあの太刀が、何だったのかを聞き出します。通りかかった頼朝に見つかって、余計なことを言うなとたしなめられますが、「源氏に伝わる名刀」の響きにウットリな政子は、興味津々。スライディング土下座までして見せてくださいとお願いするのでした。
政子に対して、頼朝が結構ぞんざいな扱いなのが面白いですね。「全てを諦め、諦念の世界にどっぷり浸った貴公子」というポーズから自由に、素になってるというか。
■呆れた頼朝は政子に太刀を見せてくれました。
この太刀を奮う勇ましい武士の雄雄しい姿を思い描いて、もうウットリな政子。
そんな彼女の姿に、頼朝は自分の父親がまさに彼女の思い描く雄雄しい武士の姿であったことを語ります。そしてその父が破れ、勝者となった清盛から敗者である自分を思い知らされたことを。
しかし、空気を読まない政子にはそんなセンチメンタルは通用しません。
「立ち上がれ!源氏!!!」といきなりのハイテンションで頼朝を叱咤します。政子の激励をすり抜けて、「昨日が今日でも今日が明日でも…何も変わらない」と自分の世界にまた引きこもる頼朝。政子は持ち前のポジティブさで、頼朝の後ろ向き思考を「明日を帰るのは今日ぞ!(だから、いま、前を向け!!)」と再び叱咤するのですが、清盛に気おされた記憶が忘れられない頼朝は、政子の呼びかけには応じません。

■頼朝がすっかりビビってる相手である清盛ですが、彼と後白河との関係はいよいよ難しくなっていました。
福原に来た後白河は、滋子亡きいま、もはや福原を再び訪問することはない、と決別宣言をして去っていきます。これまでの連携関係は最早続かないと悟った清盛は、後白河一派を押さえ込む時期が来たと、ついに動きます。
■その方法がなかなか陰険。比叡山に手をまわし、その傘下にある寺を訪れた、西光の息子達を挑発。最終的に西光の息子・師高&師経たちが寺を焼き払う事態にまで誘導したのです。その結果、比叡山が師高・師経の罷免を求める強訴を起こしたのです。後白河側近の勢力を削ぐ作戦ですな。
裏に清盛の息がかかってるとも知らない西光は、後白河の御前に重盛を呼び出し、強訴を抑えよと命じます。どうやら重盛も清盛の暗躍を知らないようで、お役目大事とばかり、強訴鎮圧を約束してます。
重盛に、我が子2人を守ってほしいと頼む西光。お前ら平家にタテついといて、うちの子のこと守ってねとかどんだけ厚かましいんだと思うわけですが、師高たちがお寺に宋銭でお礼をしようとしてるところからも考えると、彼らとしては平家を潰しにかかるというよりも、あくまでも自分たちのほうがイニシアチブを持って置くようにしたい、上下関係をはっきりわからせてやりたいくらいの感覚なのでしょう。
■さて、強訴鎮圧を命じられた重盛。しかしあくまでも軍勢を見せて脅しをかけ、向こうが逃げていくように仕向けようとしました。なのに、うっかり神輿に矢を射掛けてしまったというのです。
もう公家連中は大騒ぎ。罰がくだるーとうろたえてます。
そんな中、後白河は冷静でした。この一連の展開に、清盛の気配をかぎとっているのでしょう。
まさにご名答。福原に参上し、神輿に矢を射掛けるという不手際を詫びる重盛を、逆に褒める清盛。
清盛は言います。こうなった以上、後白河側は強訴側の要求どおりに師高・師経を差し出して手を打つしかないと。
最初の寺での諍い、そしてひょっとしたら自分とこの郎党の不手際までもが清盛の仕組んだ罠だと知った重盛。彼は愕然とします。
重盛は、王家と連携し世を安定させた先に、清盛の考える事業があると思っていたのです。
しかし、今回の清盛の罠は、王家との連携を自ら断つともいえる行いです。
父の真意を問う重盛に、ただ「賽の目は変わる」とだけ答える清盛。滋子が生きていて後白河のワガママ気ままを制御できたときはいざ知らず、今は後白河との連携は不要。それが清盛の判断です。
野放し状態の後白河が、共闘できる存在ではないことを、清盛はイヤってほど知ってますからね経験で(笑)。
後白河を切り捨て、徳子が皇子を産んだ時点で高倉院政を開始し、後白河院政を終わらせる。それが清盛の思い描く、王家との関係です。後白河と手を切って、王家を次の時代に移行させたいわけですね。
■でも、重盛は四角四面の人なので、後白河院政の今、お支えすべき王家のトップは後白河院、という考え方なので、清盛の発想は「王家をお支えしない」でしかなく、その考えについていけません。
このへん、視聴してる側にも、この感覚の違いってわかりづらいだろうな。。。
■そして、最終的に西光の息子達は流罪となりました。その西光に、これは全部清盛の罠だったのだと語る後白河。味方にくらい先に言っといてやれよ…。
怒り心頭で、清盛に協力していた宋銭を投げつける西光。「面白くないのう」とどこかで聞いたフレーズが口をつく成親。そして自分から決別宣言しときながら、相手から決別宣言&仕返しされたことは許せない後白河なのでした…。なんとしてもやり返してやりたくて仕方ありません。
そして、あの計画が始まってしまうのです。鹿ヶ谷に集まる人々の姿が…

■強訴事件の顛末は各地に届きます。
そろそろ出家する年齢になった遮那王。ですが、弁慶から聞かされた、実の父親の話が忘れられず、どうにも出家に踏み出す気になれません。迷う心のまま、笛を吹きます。
■その笛と呼応するかのように、東国では笙を奏でる頼朝が。
そして、いよいよ勢いを増す平家の様子に、ただただ自領の安定、家族の無事を願う時政は、政子に嫁に行って家庭で幸せになれと言い聞かせるのです。
しかし、その言葉にも乗り気になれない政子。源氏側でも変化の兆しが育ち始めています。
# by mmkoron | 2013-01-13 18:22 | 大河ドラマ「平清盛」

    

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