小林賢章監修 / PHP文庫 / 2012年1月発行 / 629円
発売日に見本誌をいただいたので、ご紹介を…。
イラストだけですが自分も参加させてもらった本だと、ちょっと思い入れ入って公正にならないかなと心配しつつも。
■見本誌を見て、真っ先に思ったのが
「思ったよりも、オタク向けなのか…!?」という感想でした。
私、PHPの歴史系の文庫本というと、「●●に学ぶリーダー論」みたいなののイメージが強かったのです。
初見のかたは、タイトルや表紙の雰囲気、キャラ(ビワッキーくん)がナビゲートするという構成で、かなりライトな本を想像されると思います。が、
中身は予想以上に手堅い。
■構成は、次のようになってます。
1)『平家物語』を1巻あたり2章くらいに分けて、あらすじ紹介
2)主要人物紹介
3)合間合間にコラム
前提として押さえておきたいのは、1)はあくまでも『平家物語』の紹介だということ。
ですので、史実ではなく物語のストーリーラインに沿ってます。1)に無闇に史実を混ぜなかったのは、わかりやすくていいと思う。2)で史実との違いの話が出てきます。
■1)についてですが、巻一~巻十二まで均等に分けて紹介されてるので、印象としてはかなり詳細です。
「カンタンに平家物語がわかる!」系の本だとすっとばされがちな巻二あたりもきっちり入ってるし。
六代被斬(ここって、三国志における「五丈原の後」みたいなもんだと思う。)のあたりも詳細。
合間に、人物関係図とか、戦闘方法の図示とか舞台になった地域の写真とかが入って、イメージしやすくなってます。
■2)は、人選は『平家物語』での出番インパクトによるものと思われます。
なので、妹尾兼康とかが六波羅平家一門の主要メンバーと一緒に出てる一方で、平頼盛のように史実(この言葉あんまり好きじゃないけど)としてはかなりキーパーソンだけど『平家物語』で影が薄い…という人はとり上げられてません。
このコーナーでは、他の文献に書かれていることと、『平家物語』ではデフォルメされて「お話として面白いように」描かれてることとの差異も含めて、人物像や最期が紹介されてます。
全員にイラスト入ってるのがすごい。指定がそうなってたのか、絵を描かれた方が調べて描かれているのか、物語のどこから持ってきたかわかるポーズになってるケースも多くて、面白いです。
個性が際立つ感じなので、「結局みな同じ顔やん」的な「捨てカット」状態ではない。
紹介文は、楽屋オチっぽいツッコミではなく、印象としてはカルチャースクールで大学の先生が語ってくれてるような、丁寧で易しい語り口です。
■3)は
・巻頭に入ってるみどころダイジェスト
・「人物対決」のおたのしみコラム
・原文ピックアップして、調子を楽しむコーナー
・その章段にちなんだ漫画(ここに私の描いたのを使ってもらいました。ありがたや…。)
・平家物語好きの後世の有名人(芭蕉とか世阿弥とか)とその作品…など、マメ知識
で、飽きないようにいろいろ箸休め的に入ってます。
成立背景とか、文章のリズムを楽しむとか、国文で平家勉強するときの鉄板分野がさらっと入ってるのも、やっぱり手堅い。
■…というわけで、
「
学校で●●最期系の章段をやった記憶くらいしか、『平家物語』に触れたことがない人」向け
で、そういう人が
「
学校でやった以外の物語全体がどうなっているかを知って、主要な人物については物語での描かれ方だけでなく実像にも興味が持てて、イラストや写真をふんだんに載せることで、文字面を追うだけでなくイメージができるようになる」
のを目指す本なんだなーというのがわかるつくりです。
ほんと、使われているイラストとかのタッチはイマドキ風(※自分の絵は画風を語る以前のレベルなので、除く)で、オタクっぽくも見えるんだけど、中身にオタクっぽい突っ込みや演出がなく、手堅い。
『平家物語』読み込んでる人は、知っている内容の整理だと思うので、目新しい情報が得られるわけではないですが、うろ覚えだったらおすすめだと思います。
…むしろ私の漫画が唯一の「おたくっぽい突っ込み」要素って感じですね、ぎゃふん。
■最後に…。タイトルは「は」が「に」だったほうが、平家物語大好きな私にとっては、好みだったかも。