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源平観戦日記


愚管抄 全現代語訳

講談社学術文庫/2012年5月発行/税込1,365円

■出るらしいとは聞いてたけど、いつ出るのかよくわかんなくて。本屋さんに別の本を探しに行ったらおいてあったので、買ってきました。こういう本ばかり買ってると感覚が麻痺しがちだけど、1400円の文庫ってすごいよなぁ。この単価の高さって、いったい何部発行なんだろう。よほど小ロットなのか、現代語訳の出版権がものすごい金額なのか…そのへんはよくわからん。
■で、内容なのですが。研究をしてる人のような感想は書けないので、読書感想文的に行きます。
この作品、高校とかの日本史の授業で、「道理」というワードとセットで作品名・作者名を暗記した記憶がありますが、確かに中に何度も何度も「道理」という言葉が出てきます。
起こった事象に対して、「それはそうなる道理があった」≒「歴史のあるべき姿に沿って、そうなるべくしてそうなった」ってなニュアンスで使われているようです。
で、この本では、神武天皇のところからスタートして現在(っていっても、慈円にとっての現在なので、承久の乱のあたり)までの皇統とか大臣の系譜が書かれています。

■さて。これは私のまったくの主観なのですが、私は読んでいて、なんか途中で「道理」と「史実」が逆転してる印象を受けました。
というのも、初期の天皇って、100歳越えとか普通にしてるじゃないですか。さらにそんな天皇に対して大臣が3代に渡って、150年以上仕えてたり。それが淡々と「こういうことがありました」書かれています。
でも、慈円の時代の天皇は、数年で交代するし、100歳の4分の1も生きないで死んじゃう人が続出するわけでしょ。「慈円、本気でこれを信じてるのか~?」って思いますよね。
私も読みながらそう思ってたんですけど、途中で「天皇がころころ変わっている時期(「倭の五王」らへん)があるんだけど、それは、転換期としての道理である」みたいなコメントがされてるのです。
ほかにも、神功皇后のところで「彼女が政治を行う体制を60年も維持したということは、天皇という存在が、血筋より実力で保証されるという道理を示しているのだ」みたいなこともかかれてます。
私は、これを読んで、「この人は、序盤の天皇の記録が、『そうなるように設定されたもの』ってわかってて書いてるんだよな」と納得したのでした。
■序盤の神話のような時代については、彼は、この超設定(笑)がもちろん事実だとは思ってないと感じます。

 道理 → 史実

という矢印の向きで、道理(これはある時期の先達が考えたもの)にあわせて「史実」が設定されてるって考えてるんじゃないかな。
先人が考えた政治の倫理コード(道理)があって、それにかなうように、それを説得できるような「史実」があるのだ、と。
■しかし、後半、つまり慈円の時代に近づくと、彼の論理は

 史実 → 道理

の向きになってて、「いろんな事象が起こるけど、それはよくよく考えるとちゃんと道理に合っている。世の中は道理に沿って動いているんだね。」って因果関係になってる。そんな風に感じました。
どうしてそんな風に感じたかというと…序盤で「道理に合っている」とするときの論拠って、何百年続いたとかそういう「リアリティのない史実」なんだけど、後半ではちゃんと事実としてはっきりしていることを論拠にしてるからだと思います。
序盤は不確かな情報ばかりだから論拠にリアリティがないのは当然なのかもしれないけど。まぁそこは私の個人的な感想です。

■さて。平家物語の世界に関係するあたりの記述についての感想も書きます。
■客観的に、感情を抑制して書かれているけれど、ところどころで個人的感情が出てるところが面白い。基実・基通たちへの書きかたとかね。淡々と事実だけ書けばいいのに、「こんなに仕事のデキないやつって、ほんとそうそういない」みたいな余計なコメントを書き添えちゃってて。言わずにおれないんだろうな(笑)。
あと、忠通が頼長に一時氏長者の座を奪われたことについては、

パパ忠実が、「頼長がどーしてもトップになってみたいって言うから、ちょっとの間だけ、お願い!」って言って来て、忠通が返事をしないでいたら、朱器台盤を奪われた。

って書かれてます。忠実のゴリ押しもあったんだろうと思うけど、でもそもそも忠通にずっと息子が生まれなかったので、頼長を養子にしたんだけど、40過ぎてから息子がボロボロ生まれ始めて…って事情もあるんですよね。その辺はスルー。慈円がそもそも忠通の息子なので、そのへんは書きづらいだろうね。
そんなわけで、南朝プッシュ色前面出しの『神皇正統記』と比べると、「客観的」って言われるけど、でもそうでもないなーという印象でした。
■平家の人たちの話はちょろちょろと出てきます。
清盛のことは、これを読む限りは、大人の仕事をする人というか、バランス重視で仕事をする人って印象。
(いまの大河は間逆だけど、どこかでかわるのかしら)
そのほか、都落ちのくだりで資盛と頼盛が一緒に後白河にアポをとろうとするんだけど、後白河は資盛は無視、頼盛にはこっそり「どこそこでいったん避難しておきなさい。あとで保護してあげるから。」ってなお手紙を出した…って話も入ってます。これ、資盛のことは可愛がってたけど、でも、一門の実権奪われてる小松のしかも次男だから、可愛いだけで利用価値は低い。頼盛のほうは使えるって判断ですよね。
これを賢いって評価もできるんだけど、一緒に言ってきた人に対して、片方切って片方は隠れて保護するってのが、私は性格わる~!って思っちゃう。この、残酷を残酷と思ってない対応の仕方が、イメージどおりではあるんだけど。。。
■あとは、処刑前の重衡を見に行った人が「処刑される人なのに、死相が全然なかったよ」と感想を述べた…という話もあります。ここはそういうことがありました、という記述だけで、それに対する慈円のコメントがないのが残念。

そんなこんなで、
平家物語で起こる出来事を、別の視点から見ていく…というのももちろん面白いですし、これを書こうと思い立った慈円の気持ちとか立場とかを考えながら読むのも面白い作品でした。
読みやすい構成ではないんだけど、一度は読んでみるのをおすすめします。私はもうちょっと時間をおいたら、もう1回読んでみます。こういう情報過多の本って、時間を置いて読むとまた違うことに気づいたりするので。
by mmkoron | 2012-05-19 08:48 | 書籍

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