角田文衛 著/講談社学術文庫/(上)1250円 (下)1350円/2000年発行
■元々は別の出版社から1980年代に出てたものが、出版社を変えて発行されたようです。
文庫とは思えない価格設定です。本屋さんでレジに出して、値段言われてびっくり。
■治承・寿永乱後の平家の生き残りの運命を、様々な資料をかき集めて調べ上げ、紹介する本です。小説ではなく、論文形式。
・六代をはじめとする遺児たちへの処遇
(「副将被斬」級の、結構えげつない話続出。源氏って源氏って…!)
・建礼門院や平教子、他家に嫁いだ姫君たちなど、残された女性達のその後
・親平家だった貴族たちの動き
・平家落人伝説について
などを知ることができます。平家物語中でもちょろっと出てきていた、維盛の娘や、あとは知盛の娘などの話もあって、なかなか興味深いです。
平家の血はぷっつり途絶えたわけではなく、女性たちによって歴史の中に溶け込んでいったわけですねぇ。
■ものすごく詳細に調べこまれてます。巻末の出典が膨大で、思わずため息。
出典が明示されてることもあって、私は最初は全部真に受けて受け止めてました。
んが、読み直すと、「~であるに違いない」と書いてあることの中にも、主観と客観が入り混じってるので、読むときには注意が必要です。
って、文学部とかの論文はみんなそんなかんじなので、私が書くまでもないことですね…。
例えば、
「この時期、彼女の住んでいた屋敷には、西海での平家没落に立ち会った者が多数おり、彼女に平家の無念を繰り返し話し聞かせたに違いないのである」
みたいなことが書いてあったとします。
でも、自分の祖父母を考えたときに、同居してたときに戦時中の悲惨な話を孫に聞かせるかというと、それはその祖父母の性格によって違ったりしますよね。ちなみにうちの九州の山奥に住んでたおじいちゃんは戦争の話は全然しなかったのですが、としとってボケてから「満州の山もこんなかんじで、…」と山並みの話を何度もしてました。
一方、主観寄りであってもなるほどなーと思ったのは、
「建礼門院大原におはしましける頃…」というフレーズがあることから、建礼門院が大原にいた後に、どこかに移動したことが推測できる
ってあたり。確かに、「まみころさんが北海道にいたころ…」といったら、まみころはその後更にどこかに転居していそうなニュアンスですものね。
そんなこんなで、すごく精緻に調べこまれた論文だからこそ、主観と客観の狭間を自分で考えながら読むのも面白いと思いますです。
■そうそう。この先生、もともとの姓と家名をちゃんと分けて使うべきだと提唱しておられたらしく、政子のことは「平政子」と記述されてます。ポリシーなんスかね。
だから、上で私が「源氏って源氏って」って書いてますが、その発言を先生の前ですると、
「平孫狩りを率先して行ったのは、平時政たちです。源氏ではありません、平氏です!」と怒られてしまうのでしょう。
巻末で解説書いてる先生が、「(著者の先生から)家の名と氏の話はミミタコレベルで聞かされ続けた」って内容をちょびっと書いてるのが微笑ましかった(^^
そういや大学の頃の先生で、「滝沢馬琴じゃありません、曲亭馬琴です!」って主張してた先生がいたなぁ。それとはちょっと違うか。