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源平観戦日記


権力の日本人 双調平家物語  双調平家物語ノート (1)

橋本 治 著/講談社/1995円/2006年発行

■なーんだ、こんな連載してることがもうちょっと前にわかってたら、『双調平家物語』読みながら作者の意図をうんうんうなって考えることなかったのに!!
と、いうわけで、タイトル通りの『創作ノート』です。
随筆チックな、思考の波をうねうね辿りながら展開する歴史論、権力論。

■平家は敗れて西海の藻屑と消えたわけですが、何に負けたのか。
歴史の教科書で、「平家は貴族化したから武士に負けた」と習ったのが私の世代です。
じゃあ貴族って何だと。
別に和歌詠んで管弦するから貴族、ってことじゃないわけですよね。
平家を巻き込み、呑み込んだ王朝の不文律が何なのかを、平家の時代よりもずずいーっと遡り、天平の頃から辿っているのがこの本です。
どこで彼らの「当たり前」が出来上がったのか、誰のミスでその「当たり前」が綻んだのか。
氏は、頼通の時代の凡ミスが平安朝の首を絞めたと語ってます。
■1コ間違うと、そこからボロボロ崩れていく。もしくは最初から結構間違ってて、ただそれに気づいてなかっただけなのか。
『双調』のほうでは登場人物たちの
「あれ?なんかうまくいかない…」
「あれ? あれれ??」
という戸惑いのほうにも感情移入しちゃうから、この本で冷静に説明されると、非常にわかりやすいです。
「どうしてそうなったのか。それだけの(傍点)ものだったからである。」
みたいな独特の言い回しが続くので、決して読みやすい文体ではないのですが、しかも2段組で分厚くって、電車の中で読むのが大変なボリュームですが、『双調』が描こうとしているものをちょっとカンニングしちゃいたいわ、って人にはオススメです。

■面白かったのは、保元の乱を説明してるあたりかな。
為義の足跡を辿っているところは、サラリーマンの哀愁漂ってて、妙に愛しくなってしまいました(笑)。
「プーの息子のために職を探してくる為義」って説明には笑った…。
古代人である彼らが現代感覚の舞台に引っ張り出されて喩えられてるのが、楽しい。
と申しますか、筆者は彼らも現代人だと何度も繰り返してます。そこが私には面白かったのです。
私は、「めんどくさがる」とか「調子こく」とか「対人ストレス」とか、そういう現代の自分の感覚と近そうなリアクションを彼らがしてるのを読むと、「そりゃそうだよなぁ、人間だもんなぁ」って嬉しくなるから。
■それから、当時の「武力」について語ってるところも興味深かったです。
当時の都の感覚では戦争はアウトソージング(笑)で、そのつもりが、保元の乱では自分達が戦闘に参加してる状態になっちゃったから都が大混乱しちゃったんだ……という見解。
氏もほのめかしてますが、なんか今も昔も日本って変わんないなーと(^^;
そういえば。『平家物語』読んでたときに、思った以上に都の人たちが平家都落ちを「他人事」として受け止めてる印象はあった。『双調』でも都落ちのシーンが近づいてますよね。どんな風に描かれるのかな。
■今はこの本の続編『院政の日本人』が執筆中だそうです。
『権力の日本人』も、『双調』の既刊分(13巻まで)も、平家ではまだ清盛・重盛くらいしか人物として焦点は当てられてなかったのですが、今度はその下の世代も語られるのかな。
どちらも次の発刊が楽しみです。

■それにしても、氏のスゴいトコロは、あまりに月並みで恐縮ですが、
「調べるという行為が目的化してない」ところ。
そして、「知識(対象に関する知識)」という縦糸と、「自分自身の深さ」という横糸の、どっちにも深さと綾をもっていること。縦糸が不足してるときは、自信を持って横糸を投入する。
「えっ、なんでそうだと言い切れるの!?」と思うところもちょこちょこあるけれど、
でもそこで動いている人間たちのストーリーが氏の中でちゃんとできているから、説得力があるし、何より語られる歴史がイキイキしてる。脱帽。
by mmkoron | 2006-05-25 22:56 | 書籍

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