平野英男 著/戯曲春秋社/2000円(本体価格)/2002年発行
「平家残花」と題し、源平題材のお話を5編載せています。
「桜卒塔婆」
■囚われの重衡と、千手の物語。
重衡と頼盛、頼朝の会話シーンがありますが、重衡が頼盛にかなり冷たい。
「京に帰ることになっていたのだが、お前(重衡)がこちらへ送られてくると聞いて、ひと目会おうと思って待っていたのだ」
「私は会いたくなかった」
とかいうやり取りがあるんですよ。それでも一生懸命重衡をなだめすかす頼盛おじさんがいじらしい。この時点では、おじさんは重衡がまさか殺されるとは思ってなかったのでした。
■このシーンは前フリで、本編は重衡と千手です。最初の宴会では、頼盛おじさんへの態度同様に無関心・無反応だった重衡が、重衡の出家の意を頼朝に伝えんとせっせと働く千手を見て、だんだん態度を和らげ、いよいよ南都へ発つことが決まった前日の宴では、千手と合奏し、唱和するのでした。
で、出発時に千手が「重衡さまの往生を祈っています。もうひとり、この子と一緒に。」って。
重衡、お前、いつの間に。
■そのほか、大納言典侍も重衡に「奥」と呼ばれてちょこっと出てきてます。この戯曲では、重衡は今更会ってもかなしいだけ、と言って、対面することなく別れの和歌を詠みあってます。
「巴殿無残」
松殿基房の娘とべったり相思相愛な義仲に、じっと我慢のコで付き従う巴のお話。
このお話の巴は、首討たれた義仲の元に舞い戻ってきます。
討った連中を蹴散らし、義仲の首を抱えて「やっと私ひとりのものになった」。こえー!
ちょっとサロメ風?
「唐糸そうし」
これも義仲絡み。義高と大姫のお話です。主人公が、義高に武術の稽古をつける侍女。
彼女の視点寄りでお話が進行します。
前述の「巴殿無残」もですが、この一連の作品では、義高の生母は巴ってことになってます。
後半の大姫のしゃべりが妙に大人びてて、ちょっとこわい。
「維盛」
■飢饉に耐えかねて村を出て、漁村に現れた農民ふたり。
二人はそこで村を仕切っている男(塩づくりが本業…だったと思う確か。コピーしてきてないので枝葉がうろ覚えです…)の世話になります。
今度は高野山から法師が流れ着き、そのとき農民ふたりが法師にこっそり話しかけます。
“もしやあなたは平景清様ではありませんか? 私たちは平家の落ち武者なのです…。”
そんな話をしてるときに、塩づくりの男が話に割って入るのです。
よく見ると男の顔は、
後白河院の五十の御賀で舞を絶賛された、維盛卿ではありませんか…!
このお話は壇ノ浦の10年後。つまり、
維盛36歳。萌えー。(←失言)
■微妙に「義経千本桜」風のお話ですね。でもあっちの維盛のよーに無事では済みません。
この維盛は、頼朝に一矢報いんと決起しちゃうのですよ…。あああ。
最後の場面、深い傷を負って苦しみながらも、死にたくない、頼朝の首を見ずに死にたくないとうめく維盛の姿は悲しい。
我が身に「死んではならぬ、維盛、維盛…」と言い聞かせながら。
これをホントに劇で観たら、このシーンだけで泣いちゃうかも。
「 大納言流罪」
どちらの大納言さんの話かしらと思いましたら、時忠さんのお話でした。
武家平家に寄り添いつつも、公家平家としてちゃっかり自分の家の繁栄を画策する時忠さんの物語。すみません、時間が足りなくてかなり読み飛ばしてしまいました…。
もちろんタイトル通りに最後は流罪。