人気ブログランキング | 話題のタグを見る

源平観戦日記


通盛の妻(『定本花袋全集 12巻』に所収)

田山花袋 著/臨川書店/7800円/1994年発行(S11年刊の復刻)

■「通盛の妻」つまり、小宰相主人公の話です。
オリジナルの登場人物としては、小宰相と通盛を見守る「柏」という乳母を配していますが、そのほかはほとんど平家物語にも名前の出てくる人物たちです。
■先日、山田美妙の小説を紹介しましたが、著者の時代が下ってるだけあって、かなり小宰相の内面描写をフォーカスする、いかにも近代文学チックな内容になってきてます。
田山花袋というと、「去った女の布団をくんくんして、残り香に埋もれて涙にむせぶ中年男を描いた人」に終始しがちなわけですがってそれは私だけですかすみません、この小説の通盛は硬派にイイ男なので、くんくんしたりはしません。
でも、二人がいちゃいちゃする描写は、1行くらいなんだけどなまめかしい。さすが田山花袋!
■じゃあ、そのくんくん路線を誰が担っているのかといいますと、なんとダークホース


左中将 清経。


過酷な九州への逃亡時に、なんとなく小宰相のところにご機嫌伺いに来るようになった彼は、その後ハマりこむように、小宰相の局を日参しだします。
最初のうちは上手な笛が聴けてうれしいので(通盛は忙しくてあまり会えない)、合奏したりしてた小宰相なのですが、だんだん「これはヤバいな」と流石に気づきはじめて、距離を置くようになる。
それでも清経はせっせと日参して、散歩に誘ったりお花を持ってきたりしてるんですけど。
でも、ある日、清経がまたルンルン気分で小宰相のところに遊びに行ったら、

向こうから、お散歩から帰ってくるんですよ、小宰相と通盛が。

「なんだかいつもと違う感じだよ、どうしたの?」とか通盛に訊かれたり、ふたりがフフと楽しげに目で会話してる様子を目の当たりにしちゃって、人知れずハートブレイクした清経君はその場を去ります。
その後です。清経君の様子がだんだんおかしくなるのは。
とうとう最後には、本三位中将のこと、大臣のこと、女院のこと、通盛のこと、さらには小宰相のことまで誰彼構わず悪口めいた批判を口にするようになってしまいます。
小宰相が私のせいなのかなと気に病んでいるころ、丁度平家が九州から四国へ渡るという時期、情緒不安定がMAX状態に達した清経は舟の先端から海上へ身をおどらせ…。
■と、長々と書いてしまいましたが、小宰相よりもむしろこの清経が印象的です。
私が、「片思いしてる人」にものすごく肩入れしてしまうからだと思います。
片思いキャラ、好きなんですよ。大納言典侍の漫画を描いたときに、重衡の気持ちをあまり描こうと思わなかったのも、主人公を片思いっぽくしておいたほうが、主人公のことを好きになれるからだと思います。
そうそう。たまに「あなたが平家関連の小説を読むときは、やっぱり自分が描いてる顔で想像してるの?」と訊かれますが、普通はどうなんですかね。
私が描いてる顔は、いろんな本を読んだときの、自分の想像した顔の折衷案のようなものなので、かなりイメージに染み込んでます。
でも、本を読むときは自分とこの設定と、二次元が微妙に入り混じったような、何かポリゴンめいた顔で想像してます、多分。でも、この清経はちょっと違った。うーん、イメージ引っ張られて顔変えちゃうかも…もっとツリ目顔がいいな。このお話なら。
■それはそれとして。
他に出てくる人物で印象に残るのは、序盤、小宰相の車に追いつこうと必死で追いかける侍女・柏を見つけて、道中気遣ってくれる経正(作中では「経政」。政治経済に強そうだ…)。
セリフがあるわけでもないんだけど、細やかで親切でいい人だなーって思います。ほのぼの。
■わたくし最愛の重衡は、維盛同様に「奥さんを都においてきた」って設定になってます。
で、なぜかこの作品中ではボロクソ。
人の奥さんに声かけまくってる、とか、ヘンな噂流したり流されたりしてる、とか。
通盛にふがいない人呼ばわりされてて哀れでした。
哀れといえば、維盛。
小宰相に「あの人は、鳥の羽音に驚いて逃げ出すような人ですから…」とか言われてた。

あんたの夫も倶利伽羅で一緒に負けてるってばよ…(涙)。

小宰相は、何かと口うるさい教経のこともスキじゃないらしく、一の谷直前に「教経には会わなかった?」と訊かれて

「あんな情け知らずな人…」

結構毒舌だよこの小宰相。
そういや、一の谷前後で「教経の北の方」って人が数回出てくるんですけど、この奥さんがまたチャキチャキしてて、面白かったです。
「早く船に乗って、乗って! もうじき乗りたくても乗れなくなりますよ!」
ってなコト言ってたりして。教経と一緒には出てこないんだけど、想像すると面白い。
■通盛の運命は平家物語どおり。一の谷で戦死。
ここに来て初めて、清経の心がわかった気がすると言う小宰相もまた、海上に身を投げるのでした。

■小宰相の、男女の愛ではないんだけど、清経をなんだかほっとけないという気持ち。清経の追い詰められてく様子や「人生というものがわかってきました」という寂しい呟きなど、見所たくさんなのですが。
一番リアルだなーって思ったのは、九州退去のときの荷物運び。

「有盛殿のところに車があるから、軒先に荷物を出しておけば、一緒に積んでいってくれます」

ってのが、ものすごく「ああ、ありそうありそう」と実感できるセリフで、妙に印象に残ってしまった…。
by mmkoron | 2006-06-13 21:36 | 書籍

<< 異次元スリップバトン●まみころ回答      平重衡(現代戯曲全集第18巻に所収) >>

源平関連の本・ドラマなどの感想文あれこれ
by まみころ
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
最新の記事
第2話「佐殿の腹」
at 2022-01-17 02:00
第1話「大いなる小競り合い」
at 2022-01-10 15:05
MOON SAGA 義経秘伝..
at 2014-08-17 14:11
カテゴリ
記事ランキング
最新のトラックバック
リンクなど。
きよもりよりもよき
まみころの平家物語サイト。
あらすじ紹介漫画とか人物紹介など。



まみころのブクログ
源平関連以外の読書日記はここに。読む本にあまり偏りはないと思ってたけど、こうして見るとすごく偏ってる。
以前の記事
その他のジャンル